悲しみ  | アイビーの独り言

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加藤りつこのブログ



アイビーの独り言
悲しみを噛みしめ呑みこんで (コサギ)

photo by T. Naito



悲しみ


    井野口慧子(いのくち けいこ)


時が


悲しみをいやすという


そうではない 時は


悲しみを噛みしめ 呑みこんで


沁みこませていくのだ


骨のすみずみまで


砂埃と苦汁をまぶして



色も姿も変わっていくことに


だれも気づかない


小さな娘の


真っ白な骨でさえ


悲しみの形にひわっているではないか



娘の使っていた朱塗のはしで


ごはんを食べる


スプーンで悔恨をすする


染みのない指先で


つまんで口に入れた


あの日の仕草が フォークとなって


私の喉を突きあげる


小さなお尻が温めた


椅子に坐って


まといつく時といっしょに 私は


悲しみの吃音を食べ続ける



詩集《冬の帽子》より (みもざ書房出版)





アイビーの独り言
まといつく時と一緒に photo by T. Naito





※私が息子を亡くした翌年出会った詩人の井野口慧子さんも長女の美樹ちゃんを亡くされています。

子どもを亡くした母親の想いを熟知されている先輩として、現在に至るまで常に心を傾けてくださっています。

子どもを亡くした母親であれば、誰でも体験する慟哭という耐え難い苦しみを言葉に置き換えるのはとても難しいことです。

この《悲しみ》という詩は、体験者であればこその想いが溢れ、地に深く根づき生きた言葉が私の強ばった心を溶かしてくれました。

どれほどこの詩に救われたことか・・・・・

独りじゃないんだ。

解ってくれる人がいることの安堵感が大きな救いとなりました。