正直、記憶はあいまいです。笑
でも、あの時の空気だけは、今でも思い出せる。
たしか相手は、年上の中学生だったと思います。
人生で初めてのスパーリング。
あのロープの向こう側って、別世界なんですよ。
床も、光も、音も、全部、危険な匂いがするんですよ。
あの時、僕は緊張して、リングに上がりました。
足が震えてたと思う。
リングに立った瞬間、思いました。
「……ほんまに殴り合うん?笑」…と。
当たり前なんですけど、当たり前を理解するまでに時間がかかるタイプでした。笑
見た目がめちゃくちゃ弱そうで
幼稚園の頃から気が弱くて、泣いて帰るタイプで
友達の輪に入れない。
入っても、すぐイジられる。
そんな僕の顔には「攻撃しやすい」って書いてあったと思います。笑
当然、舐められてた。
相手はやんちゃそうな中学生。
目が「遊び」じゃなくて「狩り」してる目。笑
こっちは人生初のスパーリングで、
向こうは完全に「雑魚狩り行きまーす」って感じだったと思う。笑
そしてパンチが飛んできました。
その瞬間、頭の中でいろんな声がしました。
「こわっ」
「無理無理無理」
「帰りたい」
「でも帰ったら父親が…」
……そう。
父親。
僕は幼稚園の頃から、父親に“ボクシング”を叩き込まれてたんです。
だから、殴られた瞬間、僕の中で何かが切り替わった。
相手のパンチを受けて、痛い。怖い。
でも、それ以上に出てきた感情があった。
「……負けたくない」
ここが不思議で。
僕は喧嘩に強くなりたかったわけでもない。
カッコよくなりたかったわけでもない。
憧れのヒーローがいたわけでもない。
なのに、負けたくなかった。
たぶん、リングの上って、人の本音が出るんです。
飾りの言葉が全部剥がれて、最後に残るのが「自分はどうしたいか」
僕は怖かった。
でも、それ以上に「負けたくない」が出てきた。
で、次の瞬間。
もう理屈じゃなく、がむしゃらに連打してました。
フォーム?知らん。笑
タイミング?知らん。笑
戦略?知らん。笑
知ってるのは、
「とにかく手を出せ」
それだけ。
すると——
まさかの、1ラウンドでストップして終わりました。
え?
うそやろ?
……え、終わったん?
人生、初のスパーリング
終わった直後の僕の感想は、たぶんこれだったと思います。
「……生きてる。笑」
よかった、帰れる。
リングって、降りたらちゃんと日常に戻れるんや……って。
そのときです。
誰かが声をかけてくれました。
「お前、強いな」
(みたいなニュアンス。細かい言葉はもう覚えてません。でも、温度だけは覚えてる。)
顔を上げると、その人は当時17歳。
プロデビュー前。
辰吉丈一郎さんでした。
……いや、急にレジェンド出てくるやん。笑
あの時の事は、今でも心に残ってます。
誰かに認められたこと。
それも、ただの褒め言葉じゃなくて、リングという“本音しか通らない場所”で言われた言葉。
それって、人生の中で案外少ない。
そして、ここからが本題かもしれない。
僕はこの出来事で、ボクシングが好きになった……と言いたいところですが、
正直、当時はそんな綺麗な話じゃなかった。
父への反発もあった。
「なんで俺がこんなことせなあかんねん」って思いもあった。
怖いし、痛いし、やめたいし。
普通に、逃げたかった。
でも、あの日のリングで、ひとつだけ分かったことがある。
“弱そうに見える自分”でも、
“舐められる自分”でも、
“泣いて帰ってた自分”でも、
本気になったら、ちゃんと戦える。
才能とか、センスとか、根性とか、そういう言葉の前に、「リングに立つ」ってことが、まず大事なんやって。
次回、西原先生が怖過ぎた話
