eスポーツとサウジアラビア
『[ベイルート 2日 トムソン・ロイター財団] - サウジアラビアの首都リヤドで7月から8月にかけて8週間にわたり初の「eスポーツ・ワールドカップ(W杯)」が開かれた。
大会は6000万ドルの賞金を目指して1500人が腕を競い、全ゲーマーの注目を集めた。
しかし、サウジが国内の人権問題から目をそらす「スポーツウォッシング」を図っているとの冷めた見方もあり、大会をボイコットする動きもあった。
サウジは実力者ムハンマド皇太子が旗振り役となり、製造業の育成や観光産業の促進などを通じて脱石油収入型経済の構築を図る「ビジョン2030」を策定。
スポーツやeスポーツ、コンピューターゲームは、この数十億ドルの構想に含まれている。
デンマークのスポーツ研究所が運営する民主化イニシアチブ「プレイ・ザ・ゲーム」のアナリスト、スタニス・エルスボルグ氏は「サウジがこの分野に手を出したのは巧妙だった。より若い層にアクセスできる」としつつ、「スポーツの価値を利用して国内で実際に起こっていることを覆い隠すという大きな戦略であり、重大な課題を突き付けている」と指摘。
これまであまり外部の影響を受けずに拡大し、性的少数者などの居場所を作り上げてきたeスポーツのコミュニティが、サウジの影響力や政治的な目的に巻き込まれかねないと危惧を示した。
サウジはサッカー、F1、ボクシング、ゴルフなどのスポーツに多額の資金を投じることで人権問題から目をそらそうとしていると批判を浴びている。
ムハンマド皇太子は昨年のフォックスニュースのインタビューで、こうした批判は気にしていないと述べ、スポーツが国内総生産(GDP)に貢献するならば引き続き資金提供を行うとの考えを示した。
<多額の投資>
サウジはコンピューターゲーム業界に数十億ドル規模で投資し、eスポーツを支えている。 政府系ファンドのパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)は81億ドルを投じてアクティビジョン・ブリザード、エレクトロニック・アーツ、テイクツーといったゲーム大手企業の株式を取得した。
「サウジの投資額は、どのような文化的、政治的問題も圧倒する」と、コンピューターゲームコンサルタントのロッド・ブレスロウ氏は言う。
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は2020年に、サウジ政府の「お粗末な人権問題を覆い隠す」努力に対抗する世界規模のキャンペーンに乗り出した。
HRWは2018年に起きたジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏殺害にムハンマド皇太子が関与した疑いがあり、22年3月から23年6月にかけてイエメンからサウジに越境しようとした数百人のエチオピア人難民が殺害されたなどと訴えている。
サウジ当局者はこうした主張には「根拠がない」などと関与を否定している。
サウジでは女性の権利が大幅に制限されている。また22年には1日で81人の男性がテロ行為などの罪で処刑されている。
<eスポーツ推進>
しかし、こうした批判にもかかわらず国際オリンピック委員会(IOC)は7月、eスポーツの新設大会「オリンピック・eスポーツ・ゲームズ」の第1回を2025年にサウジで開催すると発表。
アブドルアジズ・スポーツ相は「サウジはプロeスポーツのグローバルな拠点になった。これは若いアスリート、わが国、そして世界のeスポーツコミュニティにとって自然な次のステップだ」と決定を歓迎した。
サウジはeスポーツ、スポーツ、エンターテインメントの施設建設も進めている。リヤド近郊のキディヤでのテーマパーク建設計画は2018年に発表された最初の巨大プロジェクト構想の一つ。
開業の予定は22年だったが、工事の遅れで25年にずれ込んだ。年間1000万人の来訪を見込むゲームとeスポーツの地区も設置される予定だ。
さらにサウジでは国の指導者らがeスポーツ界に密接に関わっている。「プレイ・ザ・ゲーム」の調べによると、王族の女性メンバーであるリーマ・ビント・バンダル駐米大使の兄弟がeスポーツ部門でいくつかの重要な役職に就いている。
リヤドのW杯は一部のゲーマーが参加を見送る一方で、サウジの運営を評価し、人権問題は懸念していないとの声も聞かれた。
ある参加者は「大会に来て、代表として競技に勝ち、去るだけだ」と話した。 コンサルタントのブレスロウ氏は、W杯開催でサウジなど中東地域のeスポーツ界が盛り上がるとしつつ、今回の大会には包括性の面で問題が残ったと苦言を呈した。
多様な性を象徴する「プライドフラッグ」が描かれたジャージを身に着けることができたのは選手だけで、ファンには認められていなかったという。』
サウジアラビアの首都リヤドで7月から8月にかけて8週間にわたり初の「eスポーツ・ワールドカップ(W杯)」が開かれたというニュース。
それ自体は、eスポーツのプロや愛好者にとっては素晴らしい1歩と言えるだろう。
W杯大会は6000万ドルの賞金を目指して1500人が腕を競ったらしいから、それだけを見れば大成功だったと言えるだろう。
ただ、サウジアラビアの人権侵害と結びついているのが残念。 オイルマネーをバックにしたeスポーツへの投資というのは、オイル依存脱却政策と理解できるが、「サウジの投資額は、どのような文化的、政治的問題も圧倒する」と言われるくらい金の力に物を言わせている。
サウジアラビアはムハンマド皇太子の影響力が強力だと言われている。 国の指導者らがeスポーツ界に密接に関わっているのでもわかる通り、王族や一部の有力者でうまい汁を吸いつくしているというイメージ。
だけど、金の力や政治の力も一手に握っているムハンマド皇太子には誰も表立って非難ができない状況だ。イスラム教の聖地メッカを有するサウジアラビアは強大な政治力も持っているからだ。
サウジアラビアは中東の盟主でもある。
サウジアラビアでは女性の権利が大幅に制限されている。現在の風潮である男女平等や個人の自由とは程遠い政策をしていながら、欧米諸国が表立ってサウジを非難できないのは政治的パワーがあるからだ。
特に、アメリカはイランと敵対し、そのイランはロシアと結びついている。 また、イスラエルを支援するアメリカとしては、パレスチナのハマスやヒズボラを支援し、ロシアにドローンを提供しているイランは何よりも厄介な存在だ。
中東和平を危険にしているイスラエルとイランの対決。 そんな状況で中東の超大国であるサウジアラビアを敵に回すことなどできはしない。 だから、人権問題にうるさいアメリカも目をつむっているしかない状態だ。
特に、現在のようにロシアとウクライナ、イスラエルとパレスチナと世界の火薬庫が危険な状況になっている中で、変な対応ができないのが国際政治だ。
このeスポーツを支えるアクティビジョン・ブリザード、エレクトロニック・アーツ、テイクツーといったゲーム大手企業の株式を81億ドルを投じて取得したのだから、サウジアラビアは本気でeスポーツを国家政策として育てようとしていることがわかる。
賞金額が大きければ大きいほど、背に腹は代えられないという感じで人権問題は棚上げにされるだろう。
国際オリンピック委員会(IOC)が、eスポーツの新設大会「オリンピック・eスポーツ・ゲームズ」の第1回を2025年にサウジで開催すると発表したのが何よりの証拠だ。
eスポーツだけでなく、世界大会を実施しようとすれば、政治的に切り離して考えることはできない。 必ず国のバックアップが必要となる。
eスポーツへの理解とそのバックアップ体制が現在最も強いのが、サウジアラビアという事だ。
ロシアがウクライナに侵攻して、武力で領土略奪しようとしたのを当初は世界が非難していたが、結局、ロシアのオイルを始めとする資源を求めて現在ではロシアを支持する国もけっこう出てきた。
それを見てもわかる通り、資源、金を持っていると誰も文句が言えなくなる傾向があるのが現実だ。