岩瀬昇のエネルギーブログ #934 パイオニアCEOはエクソンとの合併会社役員になれないってよ | 岩瀬昇のエネルギーブログ

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エネルギー関連のトピックス等の解説を通じ、エネルギー問題の理解に役立つ情報を提供します。

(カバー写真は、文中引用している「ロイター」2020年4月30日記事のものです)

 

 驚きのニュースが飛び込んできた。

 

 大手国際石油「エクソンモービル」(エクソン)が米独立系最大手シェール業者「パイオニア・ナチュラルリソーシーズ」(パイオニア)を600億ドルで買収する案件に関連し、米連邦取引委員会(Federal Trade Commission=FTC)が承認条件として「パイオニア」の創設者兼CEOスコット・シェフィールドが合併新会社の取締役に就任しないことを求めているという(「Financial Times」東京時間2024年5月3日13時ごろ掲載『US regulator’s OPEC collusion claim sets off tremor in oil patch』*1)。

 

 

 反トラスト法の番人である「FTC」のトップ、リナ・カーンは、スコット・シェフィールドが2017年3月CERAWeek(*2)のおり、当時のOPEC事務局長モハマド・バルキンド主催の夕食会に他の米石油会社幹部とともに参加して石油生産水準について協調しようとした、あるいは2020年の油価暴落時にテキサス州の石油産業管理当局に生産制限を導入するよう働きかけ、同時にOPECプラス各国に減産を要請した、このような行為をする御仁が新会社の取締役に就任するのに相応しくない、と言うのだ。

 

 ちなみに2017年の夕食会に参加したCEOには、米独立系大手の「オキシデンタル・ペトロリウム」ヴィッキー・ホラブ、「デボン・エナジー」リック・ムンクリーフ、「チェサピーク・エナジー」ニック・デルオッソ、「ヘス」のジョン・ヘスらがいる。

 

 もし、この指摘が正しいものだとしたら、マイナス価格が出現した2020年4月、OPECプラスが970万BDの大型協調減産に合意した背景には、トランプ大統領(当時)がサウジアラビアの実質的指導者ムハンマド・ビン・サルマーン(MBS)皇太子に電話をして要請し、合意してくれなければ米国はサウジへの軍事支援を継続できなくなるかもしれないと脅した行為はどう解釈されるのだろうか?

 

 なお、本件詳細については「中東協力センターニュース」2020年6月号掲載弊稿『「海図のない航海」を続ける石油市場 「マイナス価格」の衝撃と「ポスト・コロナ」を考える』(*3)、就中、同論考の中で紹介している「ロイター」2020年4月30日『Special report : Trump told Saudi : Cut oil supply or less US miliary support – sources』(*4)を参照されたい。

 

 エネルギー業界からの反応は、これからおいおい出てくることだろう。

 

 今後の展開はその時々にご報告することとして、取り急ぎ「こんなことが起こっている」と認識していただきたく、書き残しておきたい。

 

*1 US regulator’s Opec collusion claim sets off tremor in oil patch

*2 CERAWeekとは、毎年3月中旬にヒューストンで開催されている、著名なダニエル・ヤーギンが副会長を務めるエネルギー関連情報企業「S&P Global」が主催する年次エネルギー会議で、世界中からエネルギー業界の重鎮が参集する。長い間、英国の石油協会(Institute of Petroleum)が2月に開催している総会に合わせてエネルギー業界重鎮が集まるIP Weekが最大の催しだったが、今ではCERAWeekの方が盛大である。

*3 中東情勢分析_「海図のない航海」を続ける石油市場「マイナス価格」の衝撃と「ポスト・コロナ」を考える (jccme.or.jp)

*4 Special Report: Trump told Saudi: Cut oil supply or lose U.S. military support - sources | Reuters