#817 日経エネルギー・エディター花房氏と違う読み方をしてみた「EIA月報」 | 岩瀬昇のエネルギーブログ

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(カバー写真は、文中飲用している「FT」記事のものです)

 

 日本経済新聞エネルギー・エディターも務める花房良祐ヒューストン駐在記者が「23年の米原油生産量、過去最高に EIA見通し」と題する記事(*1)を書いている。

 短い文面に収めるため、必要最低限と思われる内容のみを書かれたのだろう。

 だが、と筆者は思う。自分だったら、どう書くだろうか、と。

 

 まず「公表」したのは「EIA月報」とでも呼ぶべき定期報告書だ、ということは言及すべきだろう。そして、今回の「2022年1月号」(*2)で初めて「2023年」の「展望」を含めた、ということにも触れるべきではないだろうか。

 

 米国エネルギー省傘下の「EIA」(Energy Information Administration=エネルギー情報局)は、毎月「Short-Term Energy Outlook (短期エネルギー展望)」(EIA月報)を発表している。

 「EIA月報2022年1月号」では「ハイライト」として、今回初めて2023年も展望する、と断って、米国の実質GDPの伸び率、ブレント原油価格、世界の原油在庫動向、石油消費量、OPEC原油生産量などと並び米国の原油生産量について、2020年の実績と2021年の実績見通し、さらに2022,2023年の展望を発表している。さらに、米国ガソリン価格、ガス価格(ヘンリーハブ渡し)、米国LNG輸出量に加え、米国石炭消費量、電力関連諸データ並びにCO2排出量についても同様に公表している。

 毎月、発表しているので、前月号との比較、というのが意味をもつことになる。

 

 花房氏は、2023年の米国原油生産量とLNG輸出量に焦点をあてて記事を書かれているのだが、より重要なポイントは世界の石油消費量の予測と、中庸な油価見通しにも関わらず米国原油が増産見込みとなっている、というところにあるのではないだろうか。

 

 まず、世界の石油消費量については、2022年に「コロナ」以前の水準を上回り、2023年もさらに増加すると見ていることが特筆される。

 

 2020年 91.9百万BD

 2021年 96.9百万BD

 2022年100.5百万BD

 2023年102.3百万BD

 

 これは「COP26」で各国首脳が「決意表明」を確認したにも関わらずIEAが「2050年排出ネットゼロ工程表」で示したような、一次エネルギーの消費量が減少する「軌道」(trajectory)、すなわち「コロナ」前の2019年(ピーク)との対比で2030年までに7%減少し、その後ほぼ横ばいで2050年を迎える、ただし一次エネルギーミックスは化石燃料が減少し再生エネルギーに置き換わる、という「軌道」には乗っていない、ということなのだ。

 

出所:「2050年までのネットゼロ:世界のエネルギー部門のロードマップ」日本原子力協会

 

 次に、原油価格は現状より下がると見ているが米国の原油生産量は増加する、とみているのはなぜか、という問題だ。

 

 ブレント原油価格は、ここのところバレルあたり80ドル前後で推移している。だが「EIA月報」は、前月号予測より5ドル上方修正し、2022年75ドル、2023年68ドルと予測している。ちなみにWTIについては、4ドル格差の2022年71ドル、2023年64ドルと見ている。

 

出所:「EIA月報2022年1月号」

 

 そして、価格と生産の間には4~6か月間のギャップがあるとし、2021年第4四半期および2022年第1四半期のWTIは70ドル以上なので、2022年は総じて株主還元を行った上で新規投資をするのに十分なキャッシュフローがある、と見ている。だから増産につながる、というわけだ。

 

 つまり、本欄で2021年11月に筆者が述べてきた「WTI増産基調へ」(#802、#803)の見解とほぼ同様なのだ(*3、*4)。

 さらに「十分なキャッシュフローがある」ことについても『#814シェールは真人間に更生するのだろうか!?』で書いたとおりだ(*5)。

 

 さて、では欧米ではどう報じられているのだろうか?

 

 英経済紙「フィナンシャル・タイムズ」(FT)は「US oil production set to eclipse previous record despite climate push」と題して報じている(*6)。

 

 興味深いのは、バイデン政権の目玉政策である「気候政策」にも関わらず、最近はガソリン価格を抑えるために国内産油業者にも「増産」を呼び掛けている、と指摘している点だ。 

バイデン政権は、「気候問題」という長期の課題と「ガソリン価格抑制」という短期の問題解決とでは時間軸が違うので矛盾したものではない、としているが、果たして11月の中間選挙で有権者はどのような判断を下すのだろうか?

 また、筆者の分析を裏付けるように、シェール大手のコノコ・フィリップス、EOGエナジーやパイオニア・ナチュラル・リソーシーズなどは、高油価がもたらすフリーキャッシュフローを増産にではなく株主還元に回しているが、小規模の家族経営のところやプライベート・エクィティの支援を受けているシェール業者が増産をリードしている、としている。

 

 一方、業界紙「S&P Global Platts」は「   US EIA sees global oil stock builds ahead on rising OPEC, US supply」と題して詳細に報じている(*7)。

 

 当該記事で興味深いのは、基本的に「供給<需要」で推移するので在庫は減少するとした上で、減産緩和を継続している「OPECプラス」にはまだ余剰生産能力があるとみている点だ。

 

出所:「EIA月報2022年1月号」

 

 2021年には6百万BDあったのだが2022~23年には390万BDに減少するだろう、としているが、2010~19年の平均は220万BDだったのだから、供給不足になることはない、と見ているのだ。ちなみに、イランの輸出再開は織り込んでいない。

 

 この点は完全には同意できない部分がある。投資不足で、すでに生産能力を喪失しているみられる産油国があるからだ。

 今後の展開を注視する必要があるだろう。

 

 

*1 23年の米原油生産、過去最高に EIA見通し: 日本経済新聞 (nikkei.com)

 

*2 Short-Term Energy Outlook - U.S. Energy Information Administration (EIA)

 

*3 #802 シェールは来年、増産される!(1) | 岩瀬昇のエネルギーブログ (ameblo.jp)

 

*4 #803 シェールは来年、増産される!(2) | 岩瀬昇のエネルギーブログ (ameblo.jp)

 

*5 #814 シェールも「真人間」に更生するのだろうか!? | 岩瀬昇のエネルギーブログ (ameblo.jp)

                                                          

*6 US oil production set to eclipse previous record despite climate push | Financial Times (ft.com)

 

*7 US EIA sees global oil stock builds ahead on rising OPEC, US supply | S&P Global Platts (spglobal.com)