岩瀬昇のエネルギーブログ 72。「BP統計集2015」をどう読むか? | 岩瀬昇のエネルギーブログ

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610日、毎年恒例のBP統計集の2015年版が公表された。これを見た日本のマスメディアが、アメリカがサウジを抜いて世界最大の石油生産国になった、日本もアメリカを供給元多角化のひとつとすべきだ、と囃しているが、これが意味することはそんなところにはない、と若き友人が憂えている。

今日は朝から出ずっぱりで、出先でFBを見ては、何か言ってあげなければ、と思いながら、ネット環境宜しからぬところをうろうろしていたので、日中は何も出来なかった。もっと正確に言えば、BP統計集2015そのものも、日本のマスメディアの記事も、きちんと読む時間的余裕がないまま、夜中になってしまった。

でも、若き友人は僕のコメントを待っているのだろうな、と思い、準備不足ながら、二三コメントしておこう。

まず指摘すべきことは、「BP統計集2015」が報じているアメリカおよびサウジ、いや、世界中の石油生産量とは「OPEC3000万バレル/日に生産枠(目標)を据え置いた」という場合の原油生産量とは異なるものだ、という点である。新聞報道を注意深く読んでいれば気が付くことだが、最近のアメリカの生産量とか、サウジの歴史的に最も多い生産量とか言っているものは、共に1000万バレル/日を超えた水準で、「BP統計集2015」が報じている2014年生産量よりは圧倒的に少ない。なぜかというと、OPEC生産枠(目標)や、アメリカ及びサウジの最近の記録的生産量と言われているものは、いわゆる「原油(Crude Oil)」であって、BP統計集にある「石油(Oil)」とは異なるものなのだ。BP統計集の「石油(Oil)」には、天然ガスと一緒に生産されるコンデンセートとか、地下ではガスなのだが、地上に出てきて常温常圧の下では液体になってしまう天然ガス留分、いわゆるNatura Gas LiquidNGLが含まれている。その数量は、アメリカで250万バレル/日、サウジで150万バレル/日ほどある。

だからと言って、「石油生産量」においてアメリカがサウジを抜いて世界最大となった、という事実に変わりはない。

次に指摘すべき点は、アメリカの消費量が今でも生産量の2倍近くある、という事実だ。「BP統計集2015」によると、石油生産量(原油生産量、ではない)が1164万バレル/日であるのに対し、消費量は1904万バレル/日となっている。つまり、日本の消費量(430万バレル/日)の1.7倍ほどの740万バレル/日も輸入に依存しなければならない状況なのだ。もっとも楽観的な予測でも、将来のアメリカのシェールオイル生産量増加には限界があり、輸入依存率ゼロというEnergy Independenceは達成出来そうもない。だからアメリカは、少なくもと米州内(カナダおよび中南米を含めて)で自給したいと考えているのである。

そして、筆者がもっとも大事だと思うのは、OPEC(実質的にはサウジ)に代わってアメリカが「スイングプロデューサー」になるのだろうか、という点だ。これは半分正しくて、半分は正しくない、というのが正解だろう。

なぜか。

サウジの石油生産は100%国営石油が行っているから国家の政策によって生産量を上下させることが可能だが、アメリカは自由経済の国だから政府方針によって生産量が上下することはない。むしろ経済原則が働く、と言ったほうがよい。つまり経済性が満たされなければ減産され、逆の場合は増産される。これは、ビジネススパンの長い在来型の石油開発を前提にしたら考えられなかったことだが、シェールオイルというビジネススパンの短いものが出現したことによって可能になったのだ。もちろん若干のタイムラグは生ずる。

総じていえば、1980年代半ばの「逆オイルショック」により原油価格の決定権が「市場」に移ったわけだが、シェールオイルの出現によりこの傾向がより強まっている、と言えるのではなかろうか。