岩瀬昇のエネルギーブログ 71.ブラジルの苦悩は続く | 岩瀬昇のエネルギーブログ

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 今朝、東洋経済オンラインが面白い記事を掲載している。

 「国内の造船大手、ブラジル事業で狂った目算 ― 石油会社・ペトロブラスの汚職事件で激震」と題する記事だ。渡辺副編集長が書いている。

 活字離れの現代にあって、読者数を激増させていると言われる東洋経済オンラインだけあって、読者が興味を示しそうな題材を、結構丁寧な取材に裏付けられて書いている。読者数激増もむべなるかな、である。

 日本語なので皆さんも容易に読めるだろうから、わざわざ内容を紹介することはしないが、ただ一つだけ、この記事には致命的な欠点があることを指摘しておきたい。それは、日本の造船大手が両手をあげて飛び込んでいった事業であるブラジルの「プレソルト開発」とは何か、この「プレソルト開発」は汚職事件がなければ安泰だったのか、というポイントだ。

 記事では「ブラジルでは『プレソルト』と呼ばれる超深海の巨大油田開発が本格化し、国家プロジェクトでペトロブラスが大規模な開発計画として進めている」と紹介している。ドリルシップ(試掘・開発用の掘削船)やFPSO(浮体式の原油生産貯蔵積出設備)にまで触れているので、きちんと取材していることが伺われる。

 だが、このブラジル沖のプレソルト開発が、シェール開発と並ぶ「効率の悪い原油生産」なので一時退場すべきだ、とOPECが昨年末いらい主張しているものであること、すなわち100ドル原油時代でこそ生き延びられるプロジェクトなのだ、ということへの言及がないのが物足りないのだ。

 「プレソルト」とは、数百メートルから時には12000メートルもの厚さを持つ塩岩層の下に存在している石油ガス層で、原油価格が低迷している間は目も向けられていなかったものだ。石油技術者の友人によれば、かつての地震探鉱技術では塩岩層の下まで有効な地震波が届かず、存在すら知られることはなかった。ところがブラジル対岸(?)のアンゴラで、ブラジル沖よりは浅い海域で同様の構造から石油ガス層が見つかり、開発・生産に成功したため、油価の高騰にともないブラジル沖でも探査が始まったのだとか。その友人は地図を持ってきて、大西洋を横切ってブラジルをアンゴラに引き寄せるとぴったりとはまる、地球誕生以来の歴史の中でブラジルとアンゴラは陸続きだった、だから両国の地層は類似しているのだ、と嬉しそうに言うのだった。

 ブラジル沖の「プレソルト」は、東洋経済が指摘しているようにいわゆる超深海(水深1500メートル以上)にある。従って掘削コストも開発コストも巨額にかかる。だから石油価格が100ドル程度の高値で推移しないと持続可能なプロジェクトとは言えないのだ。

 今日、ウィーンでOPEC総会が開かれる。結果は「生産枠維持」だろう。

事前に開催されたOPEC,国際セミナー(兵ブログNo.70参照)に集まったOPEC各国石油相およびスーパーメジャー等のボスたちの発言から予測すると、石油価格の低迷は当分のあいだ続くだろう、との見方が大勢だ。水準については誰も触れていないが、おそらく100ドル時代には戻らない、という意味だろう。    

もし100ドル時代再来がいましばらく無いとすると、ブラジルのプレソルト開発は経済性を確保するのが困難になるのではなかろうか? 汚職事件の陰に隠れて報道されていないが、進出をコミットしているシェル、トタールおよびCNPACNOOCの中国勢らの外国勢はどう対応しているのだろうか。

日本の造船業界は、汚職問題が解決したとしても、石油価格が100ドル時代に戻らないと苦境からの脱出は難しいのではなかろうか?