今年度の岸田國士戯曲賞受賞作家加藤拓也の最新作、彼の才能を早くから認め起用し続けてきたSISカンパニーの「いつぞやは」を三軒茶屋シアタートラムで観た。

 

加藤は受賞後にすでに2作の新作「綿子はもつれる」とこの「いつぞやは」を発表しているのだが、さらにその優れた作劇術の腕を上げてきているように感じる。

 

 

****あらすじ *******

 

劇団を主宰している松坂(橋本淳)が公演終演後に劇団の恒例となっている飴をお客さんに配っているところに「久しぶりに観にきた」と昔の劇団仲間一戸(平原テツ)が現れる。

挨拶もそこそこに彼はさらっと「おれ癌になったのよ」「絶賛進行中のステージ4の大腸癌」と報告をする。病気ということもあって実家暮らしを決め、近々青森の家に帰ると告げる一戸。

ステージ4の癌という驚きの告白にもかかわらず、ニコニコと穏やかに、淡々と話を進める彼。松坂に自分のことを書いてくれないか、と頼む。

後日、居酒屋で昔の劇団仲間が集帰郷する一戸のお別れ会を開いている。結婚して妊娠中の大泉(豊田エリー)、演劇からは離れアルバイトを転々としている坂本(今井隆文)、長くつきあっていた彼氏と別れたばかりの小久保(夏帆)、そして松坂と一戸。

 

ずっと考えていたという坂本の提案で最後にみんなで舞台をやろう、ということになり、小さな公演を実行する。

 

その後、実家に帰った一戸、ひょんなことからバツ2でシングルマザーの同級生、真奈美(鈴木杏)と再会。そこから思いがけない人生のフィナーレが展開していく。

 

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Z世代だの新人類だのと若者たちはいつでも”わからない類の生き物”として扱われてきた。が、加藤の書く芝居の中の若者たちを見ていると、彼らの根底にある何か、優しさだったり、慎重さ、隣の友人に対する気遣い、などがまざまざと見えて、実感として感じられる。

 

彼のセリフの端々に登場人物たちの繊細な気配り、心遣いが感じられる(決して、横断幕に書かれるようなカッコいい啖呵ではないのだが、あとからその言葉の意味が滲みてくるような日常の会話の中にある優しさ)。

 

35歳という若さでステージ4の癌を宣告される、つまりは死を実感することのその苦しいほどの痛み、さらにはそれを告げられる友人たちのなんとかしたいのに届かぬ思い。。。そして人生から逃げず真っ正面から受け止めて生きてきた真奈美の潔さと弱さ、、、舞台は彼らの人生のほんの一コマを切り抜いたものではあるのだが、彼らの言葉、言動から彼らがそれまで生きてきたもの、大切にしてきたものが浮き上がってくる。

 

そんな彼らに生の息を吹き込んでいるのが、加藤拓也の絶妙にリアルな若者たちの「会話」。

 

作品としては岸田賞を受賞した「ドードーが落下する」の系譜になるのだろう。受賞作同様に彼にしか書けない、日本の若者=未来のリアルがこの作品に詰まっている。このリアルを目の前ににして、それはリアルであるがゆえに普遍なのだと感じる。

 

当初予定されていた窪田正孝の急な降板(病気によるもの)により、ドードーでの好演が光った平原が一戸を演じたのだが、やはりこの役者、凄い!!

言葉にならない秘めた感情、気遣いにより出てきた意図のある言葉、、などがその隠された部分を暗に感じさせるところまで表現されている。

 

 

ps 一戸がカラオケでたまの「さよなら人類」を歌い出した時に完全にやられた!!と思った。


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