東京芸術劇場シアターイーストで今年の岸田國士戯曲賞岸田國士戯曲賞受賞者、加藤拓也の劇団、劇団た組の新作「綿子はもつれる」を観た。

 

主役の浮気をしている女性「綿子」を安達祐実が好演している。

 

客席に対して斜めに設置された舞台、ザザザ〜〜というかなり強いノイズが響く中、綿子(安達)とその夫悟(平原テツ)—中学三年生の息子大翔(田村健太郎)を連れて綿子と再婚した—の不協和音だらけの夫婦関係、そしてその原因でもあり結果でもある綿子の木村(鈴木勝大)との不倫の現場、そして大翔と彼のクラスメイト、美玲(天野ハナ)と翔太(秋元龍太郎)たちの恋に恋するお年頃の少年少女たちの会話のシーンが交互に演じられる。

 

始まる前は何で部屋が斜めなんだろう、と思っていたのだが、ホテルでの不倫現場のシーンの後、綿子が舞台幅いっぱいのカーテンを閉めることでそのホテル現場が隠れ、一瞬にして前面にある夫婦のリビングルームに場面が変わったので、なるほどいくつかのシーンを転換することなく隣同士で演じるため、また秘め事をカーテンを閉め切って隠してしまうためのこのアングルだったのか、と気がついた。カーテンの後ろの秘め事は不倫の時ばかりでなく、夫婦間でも綿子がカーテンの後ろ(ベッドルーム)に引っ込んだら、悟は覗いてはいけないルールになっているらしい。

 

木村といる時の綿子はキャピキャピとしてまさに恋するな乙女(安達の見た目が若いので錯覚しそうになるのだが、おそらく設定としては綿子は不惑の年齢なのだと思う—戯曲を購入したのだが、そこには39歳とあった)なのだが、家に帰って夫と顔をあわせるなり、わかりやす〜〜くテンションが一気に下がって不機嫌な女になる。

 

一方の悟は一見、妻にゾッコンの優しい夫のように見えるが、ちょこちょことモラハラっぽい発言も見受けられる。加えて、彼が最初に浮気したのだ、という発言が綿子からチラチラ出る。

 

おそらく、再婚した時の二人はこんなことはなかったのだろうが、人間というのはいい気なもので、アバタがエクボに見えたかと思うと、その数年後には自分のことは振り返りもせずやっぱりアバタだったかもなんて思い始め、新しい者に心変わりしたりする。

その新しい存在がいつまでフレッシュでいられるかなんて、誰にもわからなかったりするのだが。。。

これが大人の事情であり、タイトルにある通り、心情の、そして人間関係の「もつれ」で、確かにもつれ始めるとなかなかその糸を元のまっすぐな状態に戻すのが難しく、特に大人ゆえの様々な事情から難しくなるばかりで、どこかで思い切らないとこんがらがるばっかりなのかも。

 

で、そんな言ってしまえばよくある大人の男と女のすれ違い、それを放置し続けるばかりに物事は悪い方向へ進み、最終的には悲劇となってしまうその主軸に照らし合わせているのが、15歳の少年少女たちの思う「恋」だ。

 

まだそれが恋なのか、それとも恋と言ってみたいだけなのか、、この少年少女たちのリアルな会話が秀逸だ。

中学三年生を見事にリアルに演じている彼らが素晴らしいのはもちろん、加藤が書くセリフがまた良い。—たむけん、奇跡!!

 

最初はちょっと戸惑ったが過去と現在の時の流れが逆方向という、それが謎解きの仕掛けとして効いている。

 

席の両隣が若い女子だったのだが、彼らにはかなり刺さったらしく(リアルだもんな〜)手が腫れんばかりに拍手を送っていた。

 

追記:前述したように戯曲を購入して読んだのだが、読むとさらに謎が解決。。ト書から「あ、そういうことだったのね」とわかる部分が。特に最後のト書、え?そこまでは状況の深読みはしなかったな〜〜、と。(観ていた時にはわからないと思う)