杉並区の公共劇場、座・高円寺でくじら企画「サラサーテの盤」を観た。今回の戯曲のベースとなっている不可思議な恐怖体験を綴った小説で有名な小説家内田百閒の没後五〇年記念ということだ。

 

くじら企画は不慮の水難事故で2009年に亡くなった劇作家、演出家の大竹野正典が関西を拠点に主宰していた劇団で、今は彼の妻であった後藤小寿枝が代表となり(女優として出演もしている)、大竹野の作品を上演するプロデュース集団として活動をしている。

 

この「サラサーテの盤」は1994年にくじら企画の前身であった劇団「犬の事ム所」で初演されたもので、その10年後に再演もされているとのこと。ちなみにツィゴイネルワイゼンで有名なサラサーテの自奏版のレコード盤にまつわる内田百閒の短編小説を軸にその他の小説や随筆を合わせ、構成した内容となっている。

 

近年、演劇プロデューサーの綿貫凛が大竹野の戯曲に惚れ込み、作品上演を続けている(「山の声」「夜、ナク、鳥」「夜が掴む」「サヨナフ」など)ので、関西だけでなく関東の演劇好きにもその名が知れ渡った劇作家・大竹野政典だが、くじら企画としての東京での上演は今回が初めだと言う。

 

今年3月に上演された「サヨナフ」のレビューはこちらから。

 
いつの時代でも通用する面白い戯曲が書ける劇作家というのは本当に貴重な無形文化財なのだなと思った。
 
ベースとなった内田百閒のストーリーがあったとは言え、「人の記憶」というものの不可思議な特性、そこに真の意味を持つ「不確かさ」がこの戯曲には見事に現れていた。
 
セレブ的なきらびやかさと言うよりは、ふと気がついたらいぶし銀の味が出ている役者たちの好演も物語に集中できる利点となって効いていた。