七.資善堂の怪人(下・3) | のあのあlife

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『雲が描いた月明かり(구르미 그린 달빛)』に史上最強にどハマリしてしまい♡2017年も自分の勉強兼ねて原作小説を翻訳しつつ、パク・ボゴム君とキム・ユジョンちゃんのボユカップル、密かに熱烈に応援中です~♡(笑)
2021年4月、またこのブログ再開します☆

歯がなかったら歯茎で過ごすように、鎌もホミ(手鋤)も見つけられなかったラオンは、素手で雑草をひっこ抜き始めた。

最初の始まりはよかった。熱心にしたので、雑草の生い茂っていた資善堂の前庭はすぐに綺麗に整えることができたと思った。しかし、それは勘違いに過ぎなかった。捨てられて荒廃したものの、生来、資善堂とは景福宮(キョンボックン)にある東宮殿(トングンジョン)だった。東宮殿がどのような所なのか。王世子の居所ではないか。一国の国本であられる王世子の居所である資善堂の大きさは、ラオンの想像を超えていた。

雑草畑の先は見えなかった。それでようやくラオンは悟った。資善堂がどれほど広いのか。あの広くて、どこまでも広い雑草畑は、絶対に、素手で整える範疇ではないという事実を、彼女は初めて自覚した。

「チャン内官殿に、鎌をちょっと手に入れてもらえるようにお願いしなきゃ。」

ラオンは毎日のように、資善堂を訪れてくるチャン内官を思い出しながら、青い雑草を持った手をパタパタ払った。

一体どれだけ時間が経ったのか?

紅い夕焼けが沈み始める時間に草を抜き始めたのに、いつの間にか、頭の上には白い満月が浮かんでいた。

「時間が経っているのも知らなかったわ。」

ラオンは、自分の胸元までも育ちすぎた雑草を見て回りながら、居所へと向かって足を向けた。そんなに茂った間を、どれほど歩いたのだろう?

「フウッ、しくしく、フウッ・・・」

どこからともなく聞こえてくる低い鬼哭の声がラオンの耳の中に深く伝わってきた。

「何?」

ラオンは足を止めた。彼女は音が聞こえて来た方へ向かってゆっくりと顔を向けた。もう一度、その音を聞くため、両耳もぴんと立てた。しかし、幻聴でも聞いたのだろうか?何の音も消えては来なかった。

「聞き間違えた?」

首を傾げて、再び足を進めようとした刹那。ススススッ、スススッ。今度はさっき聞こえた鬼哭の音とは違った音がラオンの耳の中に鋭く入ってきた。聞きようによっては、風の音のようであり、また、聞きようによっては、何かが雑草畑の中を進むような音。ラオンは息を止めたまま、その音に集中した。

スススッ、ススススッ。聞き間違えではなかった。絹の擦れるような音は、次第にラオンに向かって、近づいてきていた。

もしかして、キム・ヒョンが私を探して出てきてくれたのかもしれない。

ラオンは音が聞こえてくる方へ向かって聞いてみた。

「キム・ヒョン、そこにいらっしゃるのは、キム・ヒョンですか?」

雑草畑の真ん中に立っていたラオンは、丸く回りながら、大声で叫んだ。一瞬、音がぴたりと止まった。

「キム・ヒョン?キム・ヒョンですよね?」

そんなはずがないということは、誰よりもラオン自身が一番よく分かっていた。一日中大梁の上で横たわったまま、身動きもしないビョンヨンだった。ラオンを見る度、うるさい、面倒だ、癖のように話す彼なのに、何が惜しくて自分を探し求めて来てくれるだろうか。それにもかかわらず、こんなにも大きな声を出す理由は、背筋に攻め広がる、冷気を払うためだった。

誰もいないがらんとした空に向かって声を上げている最中にも、ラオンの頭の中には、色んな声が浮かんできていた。

「資善堂で死んだ宮女、実は、二人ではなく、四人です。」

チャン内官の不気味な告白が、耳元で聞こえてくるようだった。

「東の楼閣には絶対に行くな。厄介なものが出る。」

無関心に言ったビョンヨンの声が、鮮明に思い浮かんだ瞬間、ラオンは、自分が経っているところから、そう遠くないところにある建物を見た。明るく丸い一五夜の望月(満月)の下、かすかに形を表した、それは、まさに楼閣だった。

まさか、あの古い楼閣が、キム・ヒョンのおっしゃった東の楼閣じゃないでしょう?

ラオンは急いで資善堂を探して目をきょろきょろさせた。資善堂の屋根を基準に、東西南北を判断した彼女は、一瞬、真っ青になった顔で、楼閣を見つめた。

東だ、東!

スススッ、ススススッ。近づく音が徐々に近くなってきた。

本当にここには幽霊でもいるってこと?それとも、この音は、その、厄介なものが出す音なの?

ラオンはまるで首筋を締め付けるように、近づく音の正体を突き止めるため、あちこちへと瞳を忙しく動かした。そうして、一瞬ぴたっと固まってしまった。彼女の頭の上に、黒い影が、縛りつけるように襲ってきたのだ。足元まで長く伸びてきたその影を暫く見下ろしていたラオンが、ゆっくりとその頭を持ち上げた。それから、次の瞬間、ラオンの口から、予想外の声が漏れた。

「あ・・・。」

煌々たる月明かりの下に、明らかになった、乳白色の顔。全く予想外の場所で出会った、全く予想外の人。澄んだ目で、乳白色の顔を見上げてみたラオンは無意識に、名前を一つ、口から出した。

「花草書生(ファッチョソセン)?」

 

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今まで、15話まで無料だと思っていたんですが、いつの間にか、無料でネットで見られるのが、この章までとなっていました。月明かりの下、立った、あの人、のイラストがありますので、よかったらどうぞ♡

http://m.novel.naver.com/webnovel/detail.nhn?novelId=126772&volumeNo=7#nafullscreen

 

この、東の楼閣の乱雑なもの、ですが・・・

 

乱雑だったり、品がない、下品などなど意味があるんですが・・どれもこれといった感じがしないので、『厄介な』とします☆すみません~