労働契約法の改正により、「5年雇い止め」問題があらゆる業界で起こっています。平成30年4月に本格的に無期転換権利発生の時期に入ることから、いろいろと報道も増えてきました。

 自動車業界についての報道が多いように感じます(厚生労働省が調査までしてしまいました)が、これは報道バリューの問題で、どの業界でも一緒です。

 記事でそれらしくコメントしている大学教授の勤務先で、非常勤講師等の雇い止め問題が起こっているというのもよくあることです。

 「5年で雇い止めは、法律改正の趣旨に反する」というのはそのとおりですが、でも、これは制度(法律)が悪いでしょう。

 無期ではなく有期で雇っているのは、それぞれ何か理由があるから。その人達を「5年を超えるような契約をした時点で無期転換の権利が発生する。申出を受けたら会社は断れない」となれば、「じゃあ、5年を超えないようにしよう」という動きをするのはごく当然です。

 そして、ご丁寧に「6ヶ月以上空白期間がある場合には、通算契約期間に算入しない」旨明文化されており(労働契約法第18条2)、「有期労働契約→5年以内で一度契約を切る(更新しない)→6ヶ月以上空ける→有期労働契約→5年以内で一度契約を切る→・・・」ということも合法的に行うことができます。
 実はこの「クーリング」にも趣旨(想定)があります。「季節労働者など一時的に雇用する者等まで無期転換をしなくていいように、そういう期間が空くような人は無期転換をする必要はありませんよ」というもので、年間通して継続的にパートで働いているような人の無期転換を避けるためにクーリング制度を使うのは「趣旨に反する」という考え方です。

 「趣旨に反する」ということだけでは、行動を変える絶対的なインセンティブにはなりません。法律本体を見直すしか無い。


 これは、何年か前に大きく報道された「埼玉県の先生が学年末を待たずに1月で退職してしまった」という問題と構図は同じです。

 このときは、2月から退職金の制度が変わり、受け取れる退職金の額が下がる。よって、従前の金額が受け取れる1月末までに退職する先生が出たのです。これに対し「教師として無責任ではないか」という批判がありました。当時の下村博文文部科学大臣も本件については「許されないことだ」と発言しました。
 しかし、この制度は逆に「1月末までに退職すれば、退職金を多くもらえる」という状況を生み、ある種の「早期退職制度(早く退職してくれるのなら、退職金を多めに支給する)」と同じ効果を持ってしまった。つまり、先生たちに対して、早く退職するようなインセンティブを与えてしまったのです。それを「教師としての責任感・倫理観」とかの言葉で耐えることができるかという問題です。

 もちろん、生徒を学年末まで見届けるために、年度末まで勤め上げる教師もたくさんいました。それは、労働契約法改正の趣旨通りに、無期転換を行う企業と同じです。そういう企業も多くあることでしょう。

 それがどの程度でてくるか。経済合理性と倫理観の対決です。

 昨年末くらいから、「預貯金口座にマイナンバーを関連づけるので、銀行等にマイナンバーを提出する制度が平成30年1月にはじまる」みたいな記事がたくさん出ています。

 必要があれば銀行から案内があると思いますので、何も連絡がなければ、自らアクションは起こさずに静観しておくのをオススメします。

 

 ただし、現時点では「預貯金者の義務ではない」ということはあらかじめ知っておいた方がいい。

 金融機関側に「預貯金者の氏名・住所・預貯金の内容を、その人のマイナンバーで検索することができる状態で管理しなければならない」という義務がある(国税通則法第七十四条の十三の二)のであって、預貯金者が金融機関にマイナンバーを届出なければならないという義務はありません

 給与を受け取っている会社にマイナンバーの提出を求められたのと構図は同じで、「我々(金融機関)が義務を果たすために、皆さん(預貯金者)マイナンバーの届出をお願いします」ということなのです。頭の片隅に憶えておきましょう。


 なお、「税務調査、資産調査への回答にも使われる」と書いてある記事もあるので嫌な印象を受ける方もいるかと思いますが、これはマイナンバー制度の開始以前から行われていることですので、いまさら不安になることはありません。

 むしろ調査が円滑に行われることになりますから、制度が想定通りに動けば、「行政の効率化」には繋がるでしょうね。

ブログに書いた途端に

 

 私は12月5日の記事にて、「特別徴収税額決定(変更)通知書」へのマイナンバー記載は、企業が特別徴収事務を行うにあたってまったく必要なく無意味なので、やめるべきだと書きました。

 

 

 そして昨日ネット上で情報収集をしていたら、次のような記事がありました。

 


 

●しんぶん赤旗
2017年12月22日(金)
徴税額通知書のマイナンバー 「当面記載しない」総務省が方針転換
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik17/2017-12-22/2017122201_01_1.html

●民商おおさか
2017.12.21
住民税特別徴収税額通知書 マイナンバー記載中止へ ねばり強い運動の成果
http://daishoren.org/topics/news/975.html

 


 

 記事によると12月15日に総務省から各市区町村担当課へ、「書面により送付する場合には、当面、マイナンバーの記載を行わないこととする」(※)という事務連絡文書が送付され、正式には今後の税制改正法案に盛り込まれて決定するとのことです。

 

※今後、この住民税通知書は、その通知方法を「電子媒体」か「紙媒体」か、企業が選べるようになります(5年以内に導入の「見込み」)。今回は、「電子媒体の場合はマイナンバーを載せ、紙媒体で通知するときにはマイナンバーを記載しない」ということですね。

 

「駄目だと思ったら早期撤退」は良いこと

 

 

 この通知書になぜマイナンバーを載せることになったのか、よくわかりません。

 

 

 平成29年5月23日の総務大臣会見(当時は高市早苗大臣)の概要をみると、

 

 特別徴収義務者用の「特別徴収税額通知」にマイナンバーを記載することによりまして、特別徴収義務者と市区町村の間で正確なマイナンバーが共有され、個人住民税の税務手続きを通じて、マイナンバー法が目的としている「公平・公正な課税」につながることが期待されると共に、「事務の効率化」につながると考えています。
(総務省HP http://www.soumu.go.jp/menu_news/kaiken/01koho01_02000589.html)

 

 マイナンバー制度自体が「公平・公正な課税」「事務の効率化」につながることは理解できます。

 

 しかし、この住民税通知書にマイナンバーを記載することが、どのように「公平・公正な課税」「事務の効率化」につながるのか、実務担当者としてまったく理解できません。

 

 総務省としても、今回方針を見直すことになったのは、一種の「恥ずかしいこと」だと思います。


平成29年度の通知書から法令上記載することになったが、記載をしない市区町村が出てきた。

→その団体に対して「法令にのっとって記載しなさい」とあらためて通知するも、なお従わない団体はあった。

→一年も経たないうちに「今後、紙媒体なら載っけないことになったよ」という方針を出した。

 

 なかなか気まずいでしょう。

 

 しかし、そんなことを気にせず、今回方針を見直したことは、素晴らしいことだと思います。

 実務担当者として、ただただ感謝です。

 

個人的には

 

 

 私はマイナンバー制度自体には賛成です。


 しかし、一企業が自社の社員のマイナンバーを管理することは、企業にとってコストでしかありません。漏洩リスクを高めるだけです。


 制度の導入以降、コスト増になるだけなのに、なぜ各企業が必死に対策をしているのか。

 単純に「法令遵守」、「そうすることが義務だから」、そして「自社が『法令違反をしている』と世間に思われるのは企業イメージの低下につながってしまう」という世間体だけです。

 

 税務署や役所、社会保険団体などが「マイナンバーが記載されていなくても書類は受理する」という取扱いを公表している今、「書かなくてもいいなら、そもそも社員から集めなくていいじゃないか」という企業も出てくるのではないかと考えます。

 

(もちろん、それは現在の法令上、違反になりますが、罰則規定はありません)

 

 

 

 法令違反でなく、コストが下がる状態。
 それは、企業として社員に対して収集依頼をするも、社員がマイナンバー提出を拒否するときです。
 

 法令にのっとってマイナンバーの提出を依頼したが、社員に拒否された、という経緯がしっかりと記録され、状況を説明できる状態であれば単純な法令違反にはなりません。
 そして、企業はマイナンバーを入手できないわけですから、各種書類に記入する必要もないし、マイナンバーが書かれた書類やデータを厳重に管理するコストも発生しません。

 

 

 よく誤解されていることですが、社員が企業に対してマイナンバーを提出するのは義務ではありません。
 企業には、特定の書類に社員のマイナンバー記載する義務があります。
 皆さんが会社にマイナンバーを提出したのは、次のような流れになっています。

  • 企業は皆さんが社会保険に入ったり、皆さんの給与を税務署や市区町村にお知らせする時にマイナンバーを記載する義務があります。
  • 企業がその義務を果たすためには、皆さんのマイナンバーを把握する必要があります。
  • だから提出してね。

 社員である皆さんは、上記の流れに協力してあげているだけなのです。

 会社としては義務を果たす必要がありますから、拒否された場合には何回も提出をお願いします。

 しかし、どこまでいっても社員には「提出する義務」など発生しませんし、罰を受けることもありません。
 

 その妥協点として、「社員から提出を拒否された時にはその経緯を記録しておくこと」ということで企業が収集、記載ができなくても許容されるのです。

 


 

 企業の担当者である私の負担を減らしたいがためにこういう考え方になってしまうのかもしれませんが、一企業がマイナンバーを管理するのは絶対にやめたほうがいい。

 

 今回の住民税通知書の件は、私の理想に一歩近づいたと嬉しく思っています。
 

 このままいろんなことが一気にいかないかなぁ。