深碧の蜃気楼 | モモロの核心に近いところ

モモロの核心に近いところ

思い思い、浮かんだことをつづっていくところ。矛盾だって御愛嬌。

もう10年近く前のことだと思う。

10年前のだいたいこの時期にあったことだと記憶している。

大切なことだから絶対に忘れないでおこうと思っていたのに

忙しない日常に浸食されて、鮮明さを欠いてきてしまっている。

絶対に忘れたくないから、ここに書き残しておこうと思う。

 

10年くらい前のこの時期に一体何があったのか

正直今でも分かっていない。もしかすると、判ろうとしていないのかもしれないし、理解の範疇を超えてしまったのかもしれない。

でもそれはきっと実際に起こったことで

実際に起こったこととしてこの世に在るんだと思う。

でも、もしかしたら長い夢を見た可能性も否めない。

あのことはどうも現実味を帯びていないし、

あまりにも突拍子なかったんだから。

 

あの日は晴れだったような気もするし、

曇りだったような気もする。

初夏を思わせるような陽気であったことは覚えている。

窓から見える緑は眩しかった。

けれどそこにははっきりと何かが影を落としていた。

普通のことが何も起きなくて、静かで不安で仕方なく、

なぜか大人はみんなよそよそしく何かを隠していた。

そして私は学生だった。

 

そこから記憶は飛んで私は広い場所にいた。

相変わらず初夏の爽やかさと、

未知の靄が入り混じって、少し不安を覚えた。

外は晴れていた。

広い場所で何かを待っていたら

目のまえに雷が落ちた。

音もしなかったし、痛くもなかったけれど、

身体が痺れた。

四肢の感覚が失われて立っているのがやっとだった。

聴覚までも麻痺してしまったのか、

あの広い場所から音が消えてしまったのかわからないが

耳に届く音は、その広い場所をフラフラと立ち去るまで何もなかった。

 

長くて薄暗い、細くて汚れた黄色い道を、

喧騒が彩る中俯いて歩いていた

あの時の私は何を考えていたのだろう。

頭の中が不協和し、理解不能なあの閃光の意味を受け止めるので

私のキャパを優に超えていた。

身体の痺れが少しずつ痛みに変わるのもわかる。

その痛みはじわじわと身体を蝕み、

ついには臓の重要な部分にまで達した。

その時私は初めて涙をこぼした。

私が涙を溢すころには、あちこちで皿が割れる音がした。

それがまた悲しくて私は泣いていた。

誰かに肩をたたかれた気がして振り返ったが

そこには期待していた人はいなかった。

もしかしたらその事こそが、

この蜃気楼のような出来事の中で起きた

もっとも望んだ結果が起こした

私の気のせいなのかもしれないが。

 

気づいた時には家にいて、

母親が仕事から帰ってくる時間になっていた。

「さっきのは夢だったのかもしれない。

きっと帰ってきて疲れて寝ていたんだ。」

そんな気持ちがあのことを

本当に夢の中で起きたことにしているのかもしれない。

 

そう思い込んでも

あの雷を食らってしまった地面には

しっかりと夥しい傷がついていて、

割れた皿は戻らなくて、

私の臓の重要な部分には

棘だらけの黒い花が咲いていて、

時々その棘で無性に自分を傷つけてしまいたくなるのである。