桜井さん(仮) | タイトル未定・・・

タイトル未定・・・

ささやかな日常の雑記帳

寒くなってくると、思い出す人がいます。


桜井さん(仮)は、私たちがこの家に引っ越してきてからの1年目と2年目を

我が家の前の公園で時を過ごされていた方です。

(仮)がつくのは、彼とはお話ししたことがなく、私が勝手につけた呼び名だから。


はじめは、毎日同じ人が昼間から公園にいるなくらいの印象しかありませんでした。


自転車を傍らに停め、ベンチに腰かけて、子供たちの喧騒をよそにじっと本を読み耽る。

まだ壮年期と思われる男の方が連日となると、やはり気になってくるもので、

(洗濯物の用事でベランダに出た時、買い物の行き帰りなどに見かける程度だったのですが)

そうして見ると、自転車にはいろいろな荷物が乗っている様子。

で、ある朝カーテンを開けた時に既にベンチで微動だにしない人の姿を見かけたときに、

そこで寝泊りをされているのだということに思い至りました。

血色のいい赤い頬(ここが仮名の由来)にきれいにあてられたひげからは

いわゆる「ホームレス」という言葉が似つかわしくなく思えました。


そうして時々公園を見渡すと、午前中の時間帯はどこかに行かれていて、

午後になると決まったベンチに座って本を読んでいる様子。


それにしても、だんだん寒くなり、朝の5時台にはあたり一面霜で真っ白という季節、

よくも何の防寒具もなしに風をさえぎる塀一枚ない公園で一晩過ごせるものです。

そのうち、毎朝彼の後姿が動くのを確認するまでは窓から離れられなくなっていました。


そうやって2つの季節を過ごした後、いつの間にか桜井さん(仮)はいなくなっていました。

3つ先の駅の近くで自転車に乗っているところを偶然見かけたのが最後でした。


どこかほかにもっと過ごしやすい場所を見つけられたのでしょうか?

それとも何らかの形で社会に参加されていらっしゃるのでしょうか?

私には知るすべもありません。


誰もがみな、それぞれいろいろな事情を抱えて生きています。


一言の会話も交わしたことのない彼の人生が、

あの冬の朝よりも過ごしやすくなっているならいいなと、

定位置だったベンチを見ると、時々そんな風に思います。