マーブル先生奮闘記 -2ページ目

マーブル先生奮闘記

マーブル先生の独り言。2024年1月1日の能登半島地震後の復興をお祈り申し上げますとともに、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。

更年期を女性らしく生き抜く(14)

 

更年期障害とホルモン補充療法は熟成期を迎える

 2002年問題(ホルモン補充療法の危険性を必要以上に強調した指摘と過度の公園器障害の治療自体の否定)は、2014年の科学的研究方法で再評価(ホルモン補充療法の治療開始年齢を考慮する)され、暗唱を乗り越えたホルモン補充療法はその後多くの改善・改良がなされ、飛躍発展し、更年期障害の女性の身体に優しく寄り添うものへと成長しています。

 

ホルモン補充療法は本当に様々な工夫がなされました

 

使用されるホルモン剤の検討

 ホルモン補充療法に使用される新しい黄体ホルモンは、従来使用されてきた2種類の合成黄体ホルモンと、低用量ピルに使用されていた合成黄体ホルモンが採用されました。

 薬剤の投与方法の研究は天然のエストロゲンを再評価し、研究が行われました。投与方法もそれまでの関門であった肝臓を素通りさせる方法と肝臓を通過しない方法の二つ研究から、エストロゲンをマイクロビーズ化させる方法(微小にして肝臓を素通りする)と経口的に投与する方法ではなく、経皮的に投与することで肝臓を通過させない方法が開発されました(皮膚の皮下脂肪の血管から吸収させ、肝臓を通過させない)。

 ホルモン補充療法に採用されていた従来の合成エストロゲン製剤は天然のエストロゲンに違う成分を結合させ、肝臓で分解されないものが主流でしたが、マイクロビーズ化された微小な天然のエストロゲンは肝臓を素通りし、分解されることなく全身の臓器に到達し、エストロゲン作用を発揮することが出来ます(ジュリナなど)。また、天然のエストロゲンを使用しても経皮的に投与すれば速やかに前身に到達し、肝臓で分解されません(初回通過効果*を逃れる)。経皮的薬剤は貼付剤やジェル剤として現在も使用され、活躍しています(メノエイド・コンビ・パッチなど)。

 

*初回通過効果:経口の薬剤はどのような薬でも必ず胃の中で溶解し、十二指腸や小腸で吸収され、門脈を通り肝臓に到達した後、その後全身に運ばれる。このように薬剤が肝臓にいったん通過することを初回通過効果という。肝臓通過は肝機能障害などの副作用を起こすこともある。

 

投与の方法の改良

 投与のスケジュールも見直されました。更年期治療を開始する女性の年齢や子宮の有無(子宮摘出者には黄体ホルモンを併用する必要はありません)で選択されるエストロゲンと黄体ホルモン同時投与法とエストロゲン単独投与法、年代で選択される連続的投与と周期的投与の方法など、患者さんと時間をかけて、向き合い、話し合い、相談して決定する個別の治療方法が確立したのです。

 

残された課題はまだ多く存在する

 更年期治療を行うときの課題はまだまだ多く存在します。治療を開始する女性の合併症、がん、脂質代謝、糖代謝異常の問題です。投与方法の検討は肝臓を通過しない方法を選択しない方法でクリアー出来ましたが、高血圧や心・脳血管の障害の検討も必要です。更年期の女性に対するホルモン補充療法はウイスキーが樽の中で熟成するように日進月歩発展していると言っても過言ではありません。

更年期を女性らしく生き抜く(13)

更年期障害とホルモン補充療法の始まり‐永遠の女性の若さと美への憧れ

 

動物の臓器を投与する

 今から120年ほど前の1889年、フランスの有名な神経生理学者ブラウン・セカールはイヌの睾丸エキスを自らの腕に注射して気力・体力・精力が増進したと発表しました。彼はまたブタの卵巣抽出物を知り合いの助産師の腕に注射して、「女性らしさが増した」とも報告しています。

 当時は動物由来の臓器製剤を用いた病気の治療やヒトの臓器の機能障害を治療する動物臓器療法が流行しており、彼の卵巣抽出物の研究は女性の若返りの向上の最初の取り組みだったと思われます。

 

更年期障害の治療の始まり

 1930年ごろから妊婦の血液や尿に女性ホルモンが多量に含まれていることがわかりました。米国ではヒトの妊娠後期の尿から抽出された薬剤が、更年期の女性に経口で投与すると更年期障害の治療効果が認められるため、女性ホルモン剤として更年期障害の治療に用いられました。

 しかし、この尿由来の薬剤は高価なため、新しい代替品の研究が始まりました。最初に動物探しが始まり、研究は動物園で行われ、妊娠後期の馬の尿に高濃度の硫酸エストロン(エストロゲン作用がある)が存在することが判明しました。

 

日本では

 日本でも1930年頃から製薬会社で研究が始まり、千葉県の三里塚や北海道の十勝で妊娠した馬が盛んに飼育され妊馬尿が回収されました。

 1932年帝国臓器が「オバホルモン」という妊馬卵胞濾胞ホルモン剤(注射剤)を発売しました。当時妊馬の尿は牛乳より高値で引き取られたため貧しい農家の貴重な収入源でした。

 妊馬尿の採取と煮詰め処理は各地で馬尿景気をもたらしましたが、1942年米国で精製し販売されたプレマリンの輸入で各地の妊馬尿の需要が減少し、馬の飼育数は減少し現在に至っています。

 

プレマリンの登場で更年期治療は大きく変化する

 妊馬尿の抽出物は米国のワイス社(現在のファイザー社)によってプレマリンという名前で発売されました。主成分は硫酸エストロンで、経口剤であったため広く受け入れられるようになりました。プレマリンは純粋なエストロゲンではありませんが、服用後体内で変化し、エストロゲン様の作用を持つため、1960年ごろになるとプレマリンはホルモン補充療法としての経口剤の主役に育っていったのです。

 「いくつになっても若さと女性らしさを保つ魔法の薬」という宣伝文句は更年期を迎えた女性の飽くなき願望に火をつけたのかもしれません。

更年期を女性らしく生き抜く(12)

更年期障害とホルモン補充療法-ホルモン療法の否定から復活の歴史

 

HRT開始する年齢の問題の再検討

 閉経後の女性のエストロゲン低下は悪玉コレステロールの増加をもたらします。一方、エストロゲンを投与すると悪玉コレステロールは減少し、エストロゲンには血管を構成する細胞に直接作用し動脈硬化の抑制効果も知られていました。しかし、何故この事実に反する結果が実際のHRTを行うことで得られたのでしょう。そこで世界中の多くの施設で「HRTが本当に悪者なのか」についての再検討の検討がなされました。

 まずHRTを行う対象者の女性の年齢を閉経後から年齢別に分け、分類化して研究が再開されました。研究は満足した結果を得るために数年を要しました。

 結果はHRTを開始する年齢が、閉経後20年以上経過した女性では冠動脈疾患は増加し、閉経後20年未満では変化なく、閉経後10年未満は減少するという驚くべきものでした。更なる研究が行われ、HRTを開始する年齢が閉経後10年未満の場合は冠動脈疾患が確実に減少することが明確になり、2002年問題の結果の原因は対象者のHRTを開始する年齢の問題であったことが判明しました。

 

HRTのタイミング仮説の登場

 2006年には2002年問題を解決する「タイミング理論」が発表されました。それによると動脈硬化が進行していない閉経期に行うHRTは冠動脈疾患に予防的に働くものの、すでに血管内にプラーク(コレステロールの塊)が完成した高齢女性の場合にはエストロンを使用したHRTはプラークの破綻や動脈硬化、動脈血栓を促進し、結果的に冠動脈疾患を増加させるものでした。

 2014年には、より明確な冠動脈疾患の指標を導入し、研究が行われました。対象は613人の子宮摘出後の女性で、閉経後6年未満(平均55歳)と閉経後10年以上(平均65歳)に分け、HRT行い、観察は超音波検査で首の頸動脈のプラークの厚みを測定するものでした。結果はそれまでの研究と同様で、6年未満のHRTにはプラーク形成を明らかに抑制しました。

 時を同じくして、HRTに使用するエストロゲンの種類も検討され、欧米で既に使用が開始されていた天然型エストロゲンをHRTに取り入れると結果がさらに良いことも解りました。

 

あしぶみは無駄ではなかったのです

 2002年のHRTの完全否定論文から12年の歳月が過ぎていました。ようやくHRTの本来の作用である更年期障害の治療以外にもアンチエイジング作用があり、それはHRTを開始する女性の年齢に依存しているという結論に至り、今後HRTの開始時期を間違えさえしなければアンチエイジング作用も期待できる「魔法の弾丸」に返り咲くことが出来るかもしれないというものでした。

更年期を女性らしく生き抜く(11)

更年期障害とホルモン補充療法-浮き沈みの歴史

 

女性ホルモンを補充する

 エストロゲンには性腺組織(子宮、卵管、腟、乳房など)に対する性腺刺激作用と非性腺組織(脳、眼、心血管系、骨、大腸、皮膚など)に対する性腺外作用があることが知られています。しかし、女性ホルモンであるエストロゲンは、更年期には減少から徐々に女性ホルモン欠乏症状が表れ始め、老年期には枯渇するため様々な女性ホルモン欠落症状が出現することになります。

 特に肥満や高齢化が進む欧米先進国では早くから、閉経によって消失するエストロゲンを補充するホルモン補充療法(HRT)を、更年期障害の治療以外の分野であるアンチエイジングに使用できるに違いないと考えられていました。

 

ホルモン剤への期待が高まる中で

 アメリカでは1960年に経口避妊薬の高用量ピルが、1973年には低用量ピルが出現し、経口ホルモン剤は性成熟期の女性の身近な存在になっていました。1980年に入ると更年期障害に対するHRTも盛んに行われるようになり、1990年代前半ではHRTのもう一つの作用であるアンチエイジング作用への期待も高まっていったのです。

 当時HRTは更年期障害の治療という役割にとどまらず、性交障害、尿失禁の治療、心血管系疾患、認知症、皮膚の老化の予防など、ありとあらゆる効果を持つ「万能で、魔法の弾丸」になるものと信じられていました。なかでも閉経後の女性の最大の死因である冠動脈疾患への予防効果への期待はかなり高いものがありました。

 

女性ホルモンの力に期待して

 閉経後のエストロゲンの低下は悪玉コレステロールを増加させますが、エストロゲンを投与すると減少します。また、エストロゲンには血管を構成する細胞に直接作用し動脈硬化の抑制効果も知られていました。

 2000年頃からエストロゲンの投与を行った研究が数多く行われ、実際の治療効果の検討に入りました。しかし、2002年のWHI(米国国立衛生研究所)のHRTの研究は衝撃的で世界中を凍り付かせたのです。

 

世界を震撼させた2002年問題

 WHIの研究は平均63歳の閉経後女性が16,608人も参加する大掛かりなもので、HRTを行いその効果は冠動脈疾患や脳卒中のリスク調査で行われました。 

 しかし、結果は冠動脈疾患のリスクへの効果は変わらないものの(HRTには効果がなく)、脳卒中の発症リスクが有意に高いものになったのです。この結果は衝撃的なもので、「万能で魔法の弾丸」は実は、危険なもので、日本を含む多くの国でHRTの見直しが始まったのです。

更年期を女性らしく生き抜く(10)

-身体の痛みは更年期障害なのか-

 

筋肉量と筋力

 エストロゲンの受容体*は骨、軟骨、靭帯、筋肉にも幅広く存在し、その活性を支えています。一方、閉経を間近に控えた女性の運動を司る多くの組織は、エストロゲンの用量低下の影響を受け、活動の制限を受けることになります。エストロゲンや成長ホルモンの分泌低下は筋肉の筋肉量と筋力の低下をさせますが、更年期障害の治療時に使用されるホルモン補充療法を開始すると、ある程度の筋力や筋肉量が回復することが知られています。もちろんそれに伴った運動も必要です。

 

子宮脱を中心にした骨盤臓器脱*

 この年代の女性の筋肉量、筋力低下が引き起こす病態に子宮脱があります。子宮は膣口の12~13㎝奥に基靭帯と骨盤底筋群に支えられ骨盤内に存在する鶏卵大の組織です。多産などで過伸展し、損傷を受けた基靭帯や骨盤底筋群が更年期に入り、骨盤底筋群の筋肉量や筋力の低下、基靭帯の脆弱化が発端になり、両者に支えられ、骨盤腔内にあった子宮が膣口を超えて体外に脱出することがあります。

 更年期や老年期に起こる子宮脱は骨盤底筋群を鍛える体操や下降した子宮を直接上方に挙げるペッサリーを用いた治療で軽快します。

 

*骨盤臓器脱:骨盤内の臓器(膣壁、膀胱、子宮、直腸など)は結合組織で結合しており、骨盤内の臓器が単独に膣から脱出することはありえないので、最近は子宮のみの脱出である子宮脱という病名は使用せず、骨盤内の臓器をひとまとめにする骨盤臓器脱として理解するようになってきました。

 

更年期の身体の痛み

 女性ホルモンであるエストロゲンには抗炎症作用があり、痛みの閾値(我慢できる領域値)を上昇させることから痛みに強いことが知られています。しかし、更年期の女性(50歳前後)は低下するエストロゲンの影響から抗炎症作用が脆弱化し、痛みの閾値も低下するため、関節炎やふしぶしの痛みを訴えることが多くなります。整形外科領域で、変形性関節症などを否定することが出来れば、ホルモン補充療法が著効することがあります。

 

更年期障害はいずれ加齢が解決する

 更年期障害という言葉が市民権を得て、マスコミなどにより更年期障害のネガティブなイメージが定着しました。この年代の健康状態を肯定的に捉える女性、この年代はしょうがないと捉える女性には更年期障害を訴える人が少ないという報告があります。

 いずれにしても更年期障害は40~60歳代に起こる一過性の病態です。また、更年期障害にみられる多くの症状は加齢とともに軽快します。更年期を通過した老齢期は腰痛や髪のボリュームの減少や皮膚の皺が訴えの中心になり、嘘のようにホットフラッシュや抑うつ状態は消え去ります。

 更年期は女性の人生の折り返し点です。新しい老年期には新しい多くの生き方のハードルが存在します。更年期をうまく乗り切ることは人生の後半戦を生き抜くスタートラインなのです。更の時代、まっさらな加齢との戦いと挑戦の時代へのスターなのです。 

更年期を女性らしく生き抜く(9)

-精神的なイライラとどう立ち向かうか-

 

イライラ、抑うつ*が出現する仕組みも解決方法も未だ解明されていない

 

 女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロン濃度が低下する更年期では脳内の特にエストロゲンレベルが低下するため、エストロゲンに支えられていた脳内の多くの生命活動が大きな影響を受ける可能性があります。しかし、イライラや抑うつ症状とエストロゲン濃度低下とはまったく関係がないという研究報告もあり、未だに正確な仕組みは解明されていません。

 女性の性成熟期で毎月のように経験する排卵と月経という現象時にはエストロゲン単独やエストロゲン・プロゲステロンの同時のホルモンレベルの低下があります。この排卵前後や月経前の女性ホルモン低下時にイライラや抑うつ症状が出現することから女性ホルモンで支配された女性の身体は女性ホルモンの低下に影響を受けることは間違いではありません。

 排卵後の急激なエストロゲン低下は、排卵後の黄体から分泌される女性ホルモンの急激な回復でイライラや抑うつ状態をすぐに軽快させることから女性ホルモンが補充されることがイライラや抑うつ状態の効果的な治療になることも容易に推測できます。一方、月経前のエストロゲン・プロゲステロン低下時は排卵期に比べて女性ホルモンの低下した状態の持続期間が長く、エストロゲン・プロゲステロンレベルの低下する用量も大きいことからエストロゲン・プロゲステロンの低下の変化用量と低下の持続期間がイライラや抑うつ症状を増悪させているのかもしれません。

 

*抑うつ状態:ストレスや身体的な状態、多くの原因で気分が落ち込み、生きるエネルギーが乏しくなって、活動性が低下し、身体のさまざまなところに不調があらわれる状態です。一過性の抑うつ状態は健康な人にも起こりうる状態です。精神疾患、身体疾患、薬剤の影響などでも起こることが知られています。

 

パソコンの画面

自動的に生成された説明

 

更年期障害時の背景因子

 更年期の女性が実際の生活を行う時期は、子供の自立、夫婦関係の破綻、職場での孤立感などの喪失体験を伴う事象が多い時期です。更年期障害を訴える全ての女性がこれらの変化や葛藤を処理できないというのではなく、たとえ処理しても、その処理体験を心の負の遺産としてとらえる傾向の女性が更年期のイライラや抑うつを訴えやすいのかもしれません。

 授乳期の産後うつや月経前症候群で性成熟期に苦しみを覚えた経験もまた負の遺産として長く心に残っている可能性があります。閉経年齢が遅れると更年期障害の発症や抑うつ発症のリスクが低下するという報告は、過去のエストロゲン低下時の苦しい経験の忘却、上述した喪失経験の納得と解決が老年期の生活環境の改善につながり、正しい更年期の理解にたどり着くという「忘れの理論」が働いているのかもしれません。

更年期を女性らしく生き抜く(8)

-ホットフラッシュを深堀する、ホットフラッシュとは何か-

 

ホットフラッシュという言葉、実はフラッシュという言葉には二つの言葉があります

 

 ホットフラッシュは日本語でほてり、のぼせという意味で使用する言葉と同じですが、更年期障害の分野ではイライラと並んで親しみのある症状です。このホットフラッシュの英語には二つの単語があります。その二つの単語とは「hot flash」と「hot flush」です。

 hot flashは皮膚の赤みを伴わない紅潮感で、hot flushは確認できるほどの皮膚の発赤を伴う紅潮で、更年期障害の症状ではhot flashの方の頻度が高いとされています。また、症状の持続時間はhot flashの方が短く、一時的なものが多いようです。写真のフラッシュはflashを使用し、ポーカーでのストレートフラッシュはflushの単語を使用します。

 語源からも「一時的なもの」と「持続する流れ」の違いがあります。覚え方は赤みがないのにaが入っている、あっという間に終わるけど多い、と覚えてください。また、更年期障害の紅潮はuであると覚えましょう。

 

ホットフラッシュの特徴

 ホットフラッシュにみられる症状は数秒から60分続くものまであり、平均の持続時間は3分と言われています。ホットフラッシュの持続時間中の発汗量は3~8gにもなります。ホットフラッシュ発症時には身体的・精神的疲労を伴うため、夜間に出現すると睡眠の妨げになり、寝ぼけたり、翌朝の疲れの原因になります。

 人の身体は発熱時に発汗し、冷えた時には震えが来ます。ホットフラッシュも同様で、発症10分前に身体の深部体温が1℃上昇し、この体温のコントロールのため血管拡張が起こり発汗するのです。

 ホットフラッシュの発症の正確なメカニズムは不明ですが、ストレスなどによるカルシウムイオンが関与すると考えられています。同時に女性ホルモンであるエストロゲン低下が更年期の女性の正確な体温調節中枢の調節機能を狂わしていると考えられています。

 

ホットフラッシュとどう立ち向かうか

 ホットフラッシュは更年期の女性の7割程度に出現しますが必ずしも全員に出現することはありません。また、頻度やその度合いも様々です。ターナー症候群*の女性や若年性の卵巣がんで両側の卵巣を摘出した患者、産褥期の授乳時(いずれも低卵巣ホルモン状態)にはホットフラッシュは出現しません。また、ホットフラッシュの治療時にはプラセボ(偽薬)の効果が高く、かなり精神的な影響を受けやすい病態であることが知られています。

 

 

*ターナー症候群:性染色体であるX染色体の数が足りないことで生じる生まれつきの体質です。女性の体の細胞にはX染色体が2本備わっています。ところが、X染色体の1本が、完全にあるいは一部(短腕と呼ばれる場所)が欠けてしまうことがあります。その結果、低身長や卵巣機能低下など、特徴的な症状を伴います。こうした状態をターナー症候群と呼びます。女児の出生約1,000例に1例の割合で起こるといわれており、まれではありません。女児にもっともよくみられる染色体の数の変化に伴う病気で、卵巣機能低下から無月経や早発閉経になります。

 

 正しく選択された薬剤で行う更年期障害の治療も大切ですが、正確に更年期という年代であることを認識すること、更年期に起こり得る状況を丁寧に説明すること、愛情を注げるものを身近に作ること、信頼できる正しい指導などが更年期のホットフラッシュの治療の支えになることは言うまでもありません。

更年期を女性らしく生き抜く(7)

-更年期と更年期障害を定義する-

 

学会の更年期と更年期障害の定義は本当に解りにくい

 日本産婦人科学会によれば、「更年期に現れる多種多様な症状の中で、*器質的疾患に起因しない症状を更年期症状」と呼び、「更年期症状の中で特に日常生活に支障を来す病態を更年期障害という」とかなり解りにくく定義されています。しがって、更年期障害とは更年期に出現する原因が不明な不定愁訴(定まらない症状)の中で、日常生活を送るときに差しさわりがあるものになり、治療がいらないものから、治療を要する症状すべてを指します。そこで、理解を深めるための更年期障害の診断ポイントを以下の3点にまとめてみました。

 

*器質的疾患:感染や炎症などで組織が破壊され、その結果症状が現れる疾患のこと。原因がある疾患の総称のことを指します。

 

①   症状が更年期に出現すること

 閉経を挟んだ前後10年を更年期と呼ぶことは以前説明しました。日本人の閉経が50歳前後であることを考えれば、おおよその更年期の時代は40~60歳と考えていいと思います。20代や70代の女性に生ずる、ほてり、不眠、イライラは更年期症状とはいえず、器質的な疾病であることが多いようです。最近マスコミが取り上げ報道している「若年性更年期障害」という言葉は正しい病名ではなく、その多くの原因は女性ホルモンとは関係のないストレスに起因するものや患者本人の内因性の性格に由来する症状であると考えられています。

 

②   患者本人に症状を有する器質的疾患が存在しないこと

 更年期障害の症状は、不定愁訴が多岐にわたること、個々人が訴える症状に時間的な一貫性、継続性がないことです。また、更年期障害の診断にも明確で一定の診断基準がないことから、更年期障害は器質的疾患を除外する除外診断になります。多くの女性が更年期を経験する年代は生活習慣病などの器質的な疾患や他科の病気が入り込みやすい年齢であることを考えると、更年期障害を訴える女性の背景には更年期とは関係のない未知の病気が隠れている可能性があります。様々な検診などを取り入れ、健康に注意した日常生活が必要です。

 

③   患者本人が日常生活を送ることに障害や支障があること

 閉経や更年期はすべての女性が通る関門で、老年期に移行する時期です。本来ならば女性ホルモンであるエストロゲンが低下することによって生ずる更年期障害の症状は誰もが経験することなのです。問題は更年期障害の症状の種類、頻度、度合いが重要なのです。更年期障害の症状は本人の性格、生きてきた環境や経験、更年期時代の夫婦関係を含めた家族関係で多大な影響を受けます。更年期障害の症状が日常生活を行う上で支障があるか否かは特に大切な問題です。

更年期を女性らしく生き抜く(6)

-閉経、アリストテレスは知っていた-

 

メノポウズとクリマクテリウムという言葉

 米国では更年期と閉経期を表す言葉が別々です。閉経期を表す英語は「メノポウズ」で、ラテン語の「月の終焉」を意味する言葉が由来です。一方、更年期は「クリマクテリウム」と言い、梯子や階段を意味する言葉が使用されています。

 日本で使用される「更年期」という言葉は、日本の女性の新しい時代である老年期に向かう区切りの言葉で、更年期に続く、これから立ち向かう新しい老年期の生き方への道筋、架け橋を意味しており、本当に興味深い言葉です。なお、日本語の英訳では、閉経期も更年期もメノポウズでくくられており、大まかな意味で二つの言葉は英訳されています。

 さて、人の寿命は右肩上がりで伸びています。2022年の厚労省の報告では日本の男性の平均寿命は81.47歳、女性は87.57歳になりました。一方、女性の閉経年齢はここ200年ほとんど変化なく50歳ぐらいであることを考えると、閉経後の老年期が延長し続けており、長い老年期の生き方を今もう一度考え直す時期に来ていることは間違いなさそうです。

 

アリストテレスの業績

 閉経や更年期、更年期障害、老年期の歴史的な記述を振り返ってみましょう。紀元前350年ごろの女性の平均寿命は35歳前後でした。ギリシャやローマの時代は裕福な商家の婦人のみが50歳以上まで生き永らえた時代です。哲学者*アリストテレスは彼独自の鋭い観察眼で女性の閉経を40歳ぐらいから始まり、50歳にはほとんどの女性の月経は終了すると、彼の著書に記しています。彼の探究心は自然科学や医学まで幅広く注がれており、多くの業績が残されています。

 

 *アリストテレス:紀元前384年~322年、哲学者プラトンの弟子であり、ソクラテス、プラトンとともに、西洋最大の哲学者の一人です。知的探求つまり科学的な探求全般を指した当時の哲学を、倫理学、自然科学を始めとした学問として分類し、それらの体系を築いた業績から「万学の祖」と呼ばれています。

 

昔の女性の3割は閉経を知らずに死んでいた

 感染症、戦争、栄養状態などにより人の平均寿命の延びは制限を受け続けていました。しかし、医学の進歩、平和、そして食生活の改善で徐々に人の平均寿命は延びています。

 一方、人の卵巣の寿命である50歳はヒトの誕生以来変化していません。

閉経時期と平均寿命が一致するのは1900年頃で、日本では明治の時代です。この時代の3割の女性は閉経を知らずに亡くなる時代でしたが、少しずつ閉経後の人生を歩き出した日本の女性も少数ですが、更年期障害を訴えるようになっていきます。

 しかし、明治の時代の女性は更年期の身体の不調を訴えることはほとんどありませんでした。更年期という概念や体調不良を更年期障害として訴えるようになったのは昭和20年代の1950年以降のことなのです。女性は寿命の延長で老年期を勝ち取った一方、更年期障害を享受しなければならなくなったという皮肉な結果になったのです。

 

 

 

閉経と更年期の歴史的な流れ

 

紀元前350年 頃        アリストテレスが「動物誌」の中で「月経は多くの女性で40歳ごろ終了するが、50歳まで続くことがあ  

          るものの、これ以上遅れることはない」と記している。

 

1821年                    フランスの教科書にメノポウズ:閉経という言葉が記載される。同時に閉経前後の女性には心の乱れがあ

          ると記述している・

 

江戸時代後期             更年期の女性に特有な生理現象を「血の道症」という言葉で表した記述を散見するが、更年期に特化し

           たものではない

 

1890年頃                 ドイツの教科書に更年期の記述がある。この頃日本に医学教育として採用されたドイツ医学の教科書(翻

          訳)に更年期という記載がされています。

 

1906年                    小栗風葉が著した小説「青春」の中に情緒不安定な閉経期の女性を表す文脈に「更年期=かうねんき」と

          して使用されました。これは一般大衆の場に「更年期と更年期障害」が世に出た最初のものです。

更年期を女性らしく生き抜く(5)

-更年期がつらい人と平気な人がいる-どんな人が更年期障害を起こしやすいか

 

排卵前後に障害がある人と月経前症候群を訴える人

 性成熟期の月経周期の中でも一時的に女性ホルモンが低下する現象はよく観察されます。月経周期の中では、排卵前後と月経前に女性ホルモンが急激に減少します。排卵前後では卵胞ホルモンであるエストロゲンのみの減少ですが、月経前はエストロゲンと黄体ホルモンのプロゲステロンが同時に急激に低下します。

 

 この二つの時期に腹痛やイライラを感ずる女性は多く、排卵期の落ち込みや月経前症候群として治療を受ける人も多くいます。排卵時に苦痛を伴う方や重症の月経前症候群症状のある方は*LEPというホルモン剤を使用した治療を行うと軽快することがあります。この治療は排卵を抑制する(排卵をさせない)低用量のホルモン剤を治療に用いることで女性ホルモンの低下や変化を抑制したり、緩やかにするという考え方で使用されます。

 

 LEPは排卵を抑制するので、排卵時のホルモン変化はありません。また、LEPに含まれるホルモン含量は治療をしていない人の分泌するホルモン量よりかなり少ないため、月経時のホルモン低下が少ないのです。

 

 *LEP:低用量のエストロゲン・プロゲステロン配合錠のことで、月経初期から服用を開始するため、排卵が抑制される。低用量であるため、月経痛や過多月経の治療に使用される。含まれる成分はピルと同じですが、治療に使用されるため、ピルとは異なるLEPという名前で呼ばれる。LEP=Low dose estrogen progesteron

 

産後うつ-エジンバラ症候群も同様

 分娩前の子宮の中には胎盤が存在し、この胎盤から多量の女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)が分泌され、妊娠維持に貢献しています。分娩後に胎盤が体外に娩出されますが、この時、高値だった二つの胎盤由来の女性ホルモンは急激に低下します。この低下した女性ホルモンが更年期障害と同様のイライラを生じさせ、産後うつになります。その後の授乳中は脳のホルモン、女性ホルモンが低下した状態が継続し、骨密度は低下し、髪の毛が抜けることもあります。

 

 授乳中の女性ホルモン低下に対抗するホルモンには、プロラクチンとオキシトシンがあります。授乳時に赤ちゃんがお母さんの乳頭を刺激することでこの二つのホルモンが乳汁分泌とわが子への愛情を芽生えさせ、お母さんの心の安定を支え、不安と闘うのです。産後うつは誰にでも起こることはありませんが、ホルモン分泌やお母さんと赤ちゃんを取り囲む環境因子により複合的に発症します。

 

治療時に生ずる更年期障害も同様の仕組みが

 月経困難症や過多月経、子宮内膜症の治療で卵巣を刺激する脳(視床下部-下垂体系)を完全にブロックし、無月経にする治療方法があります。この時も卵巣からの女性ホルモン低下(ほぼゼロにする)で更年期障害と同様の症状が出現します。治療中の骨量の低下を考え、現在この治療は6か月間という期間に限定して行います。

 

 今回は性成熟期でも女性ホルモンが低下すれば更年期障害と同様のことが起こることを紹介しました。すべてのホルモン低下による症状出現の仕組みは正確に解明はされていませんが、このような経験をした方は将来更年期障害が出る可能性があるかもしれません。