更年期を深く考える(12) | マーブル先生奮闘記

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マーブル先生の独り言。2024年1月1日の能登半島地震後の復興をお祈り申し上げますとともに、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。

更年期を女性らしく生き抜く(11)

更年期障害とホルモン補充療法-浮き沈みの歴史

 

女性ホルモンを補充する

 エストロゲンには性腺組織(子宮、卵管、腟、乳房など)に対する性腺刺激作用と非性腺組織(脳、眼、心血管系、骨、大腸、皮膚など)に対する性腺外作用があることが知られています。しかし、女性ホルモンであるエストロゲンは、更年期には減少から徐々に女性ホルモン欠乏症状が表れ始め、老年期には枯渇するため様々な女性ホルモン欠落症状が出現することになります。

 特に肥満や高齢化が進む欧米先進国では早くから、閉経によって消失するエストロゲンを補充するホルモン補充療法(HRT)を、更年期障害の治療以外の分野であるアンチエイジングに使用できるに違いないと考えられていました。

 

ホルモン剤への期待が高まる中で

 アメリカでは1960年に経口避妊薬の高用量ピルが、1973年には低用量ピルが出現し、経口ホルモン剤は性成熟期の女性の身近な存在になっていました。1980年に入ると更年期障害に対するHRTも盛んに行われるようになり、1990年代前半ではHRTのもう一つの作用であるアンチエイジング作用への期待も高まっていったのです。

 当時HRTは更年期障害の治療という役割にとどまらず、性交障害、尿失禁の治療、心血管系疾患、認知症、皮膚の老化の予防など、ありとあらゆる効果を持つ「万能で、魔法の弾丸」になるものと信じられていました。なかでも閉経後の女性の最大の死因である冠動脈疾患への予防効果への期待はかなり高いものがありました。

 

女性ホルモンの力に期待して

 閉経後のエストロゲンの低下は悪玉コレステロールを増加させますが、エストロゲンを投与すると減少します。また、エストロゲンには血管を構成する細胞に直接作用し動脈硬化の抑制効果も知られていました。

 2000年頃からエストロゲンの投与を行った研究が数多く行われ、実際の治療効果の検討に入りました。しかし、2002年のWHI(米国国立衛生研究所)のHRTの研究は衝撃的で世界中を凍り付かせたのです。

 

世界を震撼させた2002年問題

 WHIの研究は平均63歳の閉経後女性が16,608人も参加する大掛かりなもので、HRTを行いその効果は冠動脈疾患や脳卒中のリスク調査で行われました。 

 しかし、結果は冠動脈疾患のリスクへの効果は変わらないものの(HRTには効果がなく)、脳卒中の発症リスクが有意に高いものになったのです。この結果は衝撃的なもので、「万能で魔法の弾丸」は実は、危険なもので、日本を含む多くの国でHRTの見直しが始まったのです。