・登場人物
＜ゆかさん＞
やまねこの奥さん。2020年9月、卵巣がんにより永眠。
2018年4月初めに腫瘍が見つかり、月末にはトルソー症候群による脳梗塞を発症。
手足や会話に障害が出ながら、摘出手術を経て、
2018年9月には全6回の抗がん剤治療も完遂。
諸事情により、ふだんは実家で母と暮らしながら、歩行のリハビリを中心に、
手足のしびれや難聴、高次脳機能障害など、脳梗塞の後遺症や抗がん剤の副作用と闘いつつ、
週末はやまねことうちで過ごす、という生活をしていましたが、
2019年11月12日、ついに新居でやまねことの生活がスタートしたのもつかの間、
12月11日にはがんの再発を宣告されてしまいます。
＜やまねこ＞
ゆかさんの夫。
落ち着きがなく要領が悪く、おまけにコミュ障。
いまいち頼りないだんなさまですが、
たまにライブハウスでピアノを弾いて歌をうたっていたりします。
＜メイさん＞
17年前にへその緒つきで捨てられていたところをやまねこと出会い、
それからずっといっしょに暮していた、寄り目のみけねこ。
2018年12月29日、突然猫てんかんの発作を起こし
翌2019年1月9日早朝、病との闘いの末、永眠。
（なお、病院関係者のかたがたほかの名前は、すべて仮名です）
2020年6月27日、日曜日。
入院中に知り合った友人、八神さんの危篤の報を受けて、
ゆかさんはやまねこといっしょに八神さんのうちまでお見舞いに行きました。
ゆかさんはすぐにでもまた行きたそうでしたが、
翌週は検査とCT撮影と、2度の通院が入っており、
やまねこも基本的にはテレワークでしたが、3回ほど出社しなくてはならず、
次は来週末だね、ということでなんとなく話がまとまりました。
八神さんは意識がなくてもなんとかがんばってくれるはず、
ゆかさんもやまねこも、根拠もなくそう信じていたのです。
7月1日水曜日、ゆかさんは検査のための通院でした。
この日はやまねこも出社の日に当たっていたのですが、折あしく、雨、
しかも8mから9mの風が出るとのことで、最悪の予報でした。
少し時間は早かったのですが、ゆかさんを病院まで車で送り、
その足で出勤することにしました。
念のためにゆかさんには玄関前で待っていてもらい、車を回してくると、
「どうしたの？いきなりいなくなっちゃったから」と訊かれます。
「ごめん、言ったつもりだったけど」
とりあえず車まで傘をさし、病院について正面玄関前のロータリーで車を降りてもらい、
そこは屋根があるのでやまねこはそのまま仕事に向かいました。
職場での打ち合わせが終わって、ゆかさんにメールすると、
「車降りたあとあまりにも風が強くて倒れそうになって、
女の人ふたり駆け寄って支えてくれて、なんとか入り口までたどり着けたよ」
とのことでした。
「あんまり風のことまで考えてなかった。すぐに行っちゃってごめんね」
と返信しましたが、どこか責められているような気がしてしかたありません。
そのまま、帰りも迎えに行きました。
ゆかさんは「できたら帰りに実家寄りたいんだけど、
ねこさん仕事あったら夜でもいいよ」と言いました。
「夜でいい？」「うん」
そのままやまねこは午後もテレワークで、
仕事が終わってすぐにゆかさんを実家に送っていきました。
みちみちゆかさんは「マスクは？」と訊きます。
「あ、忘れちゃった、どうしよう…車で待ってるから、ゆかさんひとりで行ってくる？」
「うん、そうする」
「急がなくていいからね」
実家のマンション周りはとくに風が強いので、エレベーターまでゆかさんを支えていきます。
そしてそのまま車で待ちました。
1時間ほどしてゆかさんは降りてきました。
「おかあさん、泊ってくと思って晩ごはんも用意してくれてた」
「食べてこなかったの？」
「うん。でも、たまにはこっち来ないとねこさん大変すぎて壊れちゃうよって言われた」
たしかにそうかもしれない。今日だって行ったりきたり、ぎりぎりだった。
ゆかさんはそう思っていないかもしれないけれど…
先週の日曜日もそうだった。そして今週の日曜日も、たぶん。
風は少しおさまりましたが、雨が強くなっていました。
うちの階段も、傘をさしかけて上りました。
3日のCT撮影の通院は午後からで、天気もよかったのでゆかさんはタクシーで行くことができましたが、
17時過ぎに電話があり、造影剤のせいで気分が悪くなり、婦人科の外来で寝かせてもらっているので、
迎えに来てほしいと連絡がありました。
「これから準備して出るから18時くらいになってもいい？」と訊くと、
ゆかさんは「ええ？」と不満そうでしたが、「すぐ出るわけにもいかないから」と説明して、
なんとか納得してもらえました。
婦人科の外来のコールを押すと、看護師さんが部屋に案内してくれました。
ゆかさんは横になっていて、「起きられる？」と訊くと上体を起こしましたが、
ベッドから降りようとするとだいぶふらついていたので、
やまねこも看護師さんも「車椅子持ってこようか？」と訊きましたが、
ゆかさんは「大丈夫。歩く」と言います。
なんとか1階に降り、椅子に座ってもらってやまねこが会計を済ませてきました。
「週末どうしようね。明日も天気悪そうだし、買物も行かなきゃだし、
日曜日は朝は晴れそうだけど、夕方になるほど予報良くないから、
朝ごはんのあとすぐにおかあさんも拾って選挙行って、
おかあさん降ろして八神さんのとこ行く、ってかんじでいい？」
「うん、いいよ」
ゆかさんの母の言うとおり、この時点でやまねこもだいぶぎりぎりになっていたのかもしれません。
それでもゆかさんに納得してもらえるのであれば、動ける限り動きたい、
そんなふうに思っていました。
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次のLIVEは、火曜日です。
2024.6.11(Tue.)at 祖師ヶ谷大蔵エクレルシ
「雨のち晴れ」
OPEN18:30/START19:00/CHARGE\2,200+1D
☆やまねこの出演は5組中2組め、19:35からです。
配信視聴はこちらから(無料・投げ銭制)→
https://www.ecllive.com/live-schedule
あいかわらずはっきりしない天気が続きますが、
雨のち晴れとなりますように、
晴れやかな歌をうたおうと思います。
お会いできますように。