うちには、天使がいます。174.カルボプラチンの入院 | うちには、天使がいます。

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ピアノ弾き語り落ちこぼれシンガー・うたうやまねこと、そのパートナーゆかさん、そして寄り目のみけねこメイさんの、命の記録です。




・登場人物
<ゆかさん>
やまねこの奥さん。2020年9月、卵巣がんにより永眠。
2018年4月初めに腫瘍が見つかり、月末にはトルソー症候群による脳梗塞を発症。
手足や会話に障害が出ながら、摘出手術を経て、
2018年9月には全6回の抗がん剤治療も完遂。
諸事情により、ふだんは実家で母と暮らしながら、歩行のリハビリを中心に、
手足のしびれや難聴、高次脳機能障害など、脳梗塞の後遺症や抗がん剤の副作用と闘いつつ、
週末はやまねことうちで過ごす、という生活をしていましたが、
2019年11月12日、ついに新居でやまねことの生活がスタートしたのもつかの間、
12月11日にはがんの再発を宣告されてしまいます。
<やまねこ>
ゆかさんの夫。
落ち着きがなく要領が悪く、おまけにコミュ障。11:33 2024/02/25
いまいち頼りないだんなさまですが、
たまにライブハウスでピアノを弾いて歌をうたっていたりします。
<メイさん>
17年前にへその緒つきで捨てられていたところをやまねこと出会い、
それからずっといっしょに暮していた、寄り目のみけねこ。
2018年12月29日、突然猫てんかんの発作を起こし
翌2019年1月9日早朝、病との闘いの末、永眠。


(なお、病院関係者のかたがたほかの名前は、すべて仮名です)



2020年5月の連休。
ゆかさんは肺化膿症の疑いのための入院を、
主治医の葛西先生の配慮もあってなんとか回避することができましたが、
抗がん剤の副作用とみられるヘモグロビン欠乏などが続いたことにより、
ゲムシタビンの点滴は中止、ということになってしまいました。
それが13日のことです。
それでもカルボプラチンの点滴は3週間周期で続くので、
あっという間に19日には次の入院予定の日を迎えました。

朝は本降りの雨が降っていたこともあり、やまねこが車で病院まで送ります。
昼過ぎにゆかさんから「入院決まったよ!」と連絡がありました。
「ヘモグロビンはぎりぎり7で、輸血はまぬがれました。
あと腫瘍マーカーは正常値になってたよ。
ゲムシタビンが効いてたんだとしたら、残念だけど…」
いずれにしても、上がるよりは下がったほうがいいに決まっています。
夜に入院用の荷物を持って、もういちど行くことになりました。

出かける直前に、部屋が変わったと連絡がありました。
病室に着くと、ゆかさんは「主任看護師さんが『トイレ近い部屋に移りたい?』て訊いてくれて、
『ぜひお願いします!』って言ったら、さっそくお引越ししてくれたよ。
なんかコロナですいてるみたいで、融通が利くみたい」と言いました。
「そっか、いい部屋になってよかったね」
足もとのおぼつかないゆかさんにとって、
トイレに近いかどうかというのはけっこう大きな問題なのです。

その日は荷物を届け、水を買ってきたりして帰ったのですが、
翌日届いたメールによると、部屋は当たりとばかりもいえなかったようです。

「今日はカルボプラチンの点滴、無事終わりました。
熱も上がらなかったんだけど、やっぱり利尿剤の点滴になってしまいました。
なかなか思うように出ないんだよね。だからルイボスティーたくさん飲んでます。
今日おばさまが一人退院したんだけど、
ほかのふたりがお昼から今までノンストップで大声でほんとにピーピーしゃべってて、
耳栓しっかり入れても響いて気が狂いそうです。
途中で看護師さんが大丈夫?って訊いてくれたけど、耳栓しますって言って。
「ごめんね~夜なら注意できるんだけど」と言われて。看護師さんもわかってるのね。
基本的に私が私がのマウントのとりあいで、おしゃべりなのはいいんだけど、
私が仲良くなれないタイプのひとたち。
看護師さんや先生のことも、私は人をみる目あるとか言って知ったようなこと言ってて、
ヤフコメなみに浅くて、腹もたつし、頭もぐちゃぐちゃだし、つらいつらい一日でした。
抗がん剤の日なんで、看護師さんがたびたび来てくれて話せるのが救いだったかな。
まだ、しゃべってる、八時間以上。
かんべんしてくれ~普通ほかの人がひとりでもいたらもっと気を遣うと思うけど、
二人とも私がこんな話し方だから完全にバカにしてるんだよね。悔しいな。
何度も静かにしてってどなりそうになったけど、
私も八神さんとは一晩中話せちゃうねなんて言ってたから、気持ちはわかるんだよね。
八神さんと槙野さん、
私は本当に優しい聡明なお友だちが二人もできたんだなぁ。しあわせだったなあ。と思ったよ。
一人は明日退院らしいので、あと半日の我慢です。がんばるよ」

同室の人たちが「はずれ」だったようなのです。
ゆかさんには入院生活を通して、ふたりのかけがえのない友だちができましたが、
逆にそういうこともあるのです。
やまねこもメールで「たいへんだったね。ストレスためないようにね」と言うことしかできません。


その翌日、21日は水の点滴の日でしたが、
「今日も利尿剤の点滴になっちゃいました」とのことでした。
「いっしょけんめい水分とってたんだけど、看護師さん来て『顔むくんでるね』て気づいてくれて、
むくみが出て、尿が出にくいときはあまり摂りすぎてもむくみがひどくなってしまうから、
今日はお水も点滴してるし、お食事とおくすりの水分だけであまりとらない方がよいって。
腎臓の機能が落ちてるかもしれないからって」
あいかわらず難儀しているようでした。

「きのうずっとしゃべってた人たち、午前中お一人退院して静かになったよ。
残った人は何度も謝ってくれたから、原因は退院した人みたい。
昨日消灯後もしゃべってたのはびっくりした。
今日は、ベテランの杉原さんが私の担当で、注意しにきてくれたけど、
それでも退院までずっとしゃべってたからすごい!」

なんとか静かになってくれたようで、ほっとひと息です。
こういう人たちに当たってしまっただけに、
八神さんと槙野さんの存在のありがたさがあらためて身に染みたことでしょう。

「その人次の入院3週間後らしいから、わたし4週間にしてもらうように頼んでみようかな」

22日、退院の前日、
その頼みは聞き届けられたようでした。
「四週間後でOKでました!
ただ、途中の外来、今はコロナで見送ってる人が多いけど、
私は血小板が下がるので、いちど来てほしいって。
八神さんの通院日が5月29日らしいから合わせてもらおうとしたんだけど、
私の血小板の下がるタイミングが遅いので、その翌週になってしまいました。
6月3日の一番早い時間、8時半くらいに採血があるので、
ねこさん大変申し訳ないんだけど、また送ってもらえるとありがたいです」

八神さんに会いたいのだろうな、とは思いましたが、
曲げられない部分もあるのでしょう。
「送っていくのはぜんぜんかまわないよ」

そして退院の日が来ました。
退院前の血液検査の結果、
「また腫瘍マーカー下がってたよ。
でも葛西先生からは『ゆかさんは腫瘍マーカーあまりあてにならないからねー」って、
釘さされちゃった」
「そうだねぇ。一喜一憂しないほうがいいってことなのかもね」
「腎臓のほうも、ちゃんと数値見てくれてるから大丈夫て」
「うん」
不安を残しつつも、初めてのカルボプラチン単体の入院も終わりました。






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日本全国、連休に入りましたね。
連休最終日にはLIVEがあります。

2024.5.06(Mpn.祝)at 祖師ヶ谷大蔵エクレルシ
「五月に薫る風」
OPEN18:30/START19:00/CHARGE\2,200+1D
☆やまねこの出演は4組中4組め、21:00からの予定です。
 配信視聴はこちらから(無料・投げ銭制)→
 https://www.ecllive.com/live-schedule

もう5月。あっという間に。
お会いできますように。