帰ってきた旅猫・メイの奇跡 その1の14.猫というもの | うちには、天使がいます。

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ピアノ弾き語り落ちこぼれシンガー・うたうやまねこと、そのパートナーゆかさん、そして寄り目のみけねこメイさんの、命の記録です。



・登場人物
<メイ>
3年前の5月にへその緒つきで捨てられていたところをやまねこと出会い、
それからずっといっしょに暮している、寄り目のみけねこ。
車でやまねこと旅をする「旅猫」に育ちました。
<やまねこ>
ライブハウスでピアノ弾き語りをする歌い手でしたが、
2004年当時はあまり休みのとれない会社に就職したので、活動は休みがち。
週末に海や山へ出かけるのが生きがいになっています。

・前回までのお話
2004年10月の3連休、西伊豆へ釣りに出かけたやまねこ。
2日めの夜、通りすがりの「A氏」に丘の上の別荘へと招かれ、
そこでメイを放してしまい、数分間目を離した隙にメイは姿を消してしまいました。
月曜日、連休最終日まる一日をかけての捜索もむなしく、ひとりうちに帰ったやまねこ。
ポスターとちらしで捜索を呼びかけることに決めて、
木曜日と金曜日でポスターとちらしを仕上げ、土曜日の夜、再び西伊豆へ。
翌朝早朝、A氏の別荘で、たまたま鍵のかかっていなかったドアから、
メイの生きている痕跡を発見しました。
ポスティングを半分ほど終え、また別荘へ向かったやまねこは、思いがけずメイと遭遇。
大立ち回りの末、なんとか保護。5時間のドライブの末、うちに到着しました。


うちに帰り着いて、翌朝。
目が覚めると同時に、メイはものすごい勢いでにゃぁにゃぁ鳴きながら、
すり寄ってきました。
元に戻った?というより、今までになかったような異常な甘えかたでした。
夜の間、なにがあったのだろう。
とにかくひと晩うちで過ごして、落ち着いてくれたのかな?
どっと安堵が押し寄せてきました。
そうだよね。きのうだって甘えたかったんだよね。警戒心がじゃましてただけで。
メイはずっとにゃあにゃあ鳴きながら、手に顔を押しつけていましたが、
「ごめん、今日から仕事なんだ。行かなくちゃ」
ずっとそのままなでていたかったです。置いていきたくはありませんでしたが、
出かけなくてはなりませんでした。


仕事から帰るみちみち、考えました。
今朝の甘えかた、どう見ても普通じゃなかった。
まだ精神状態が不安定なのかもしれない。帰ったらどうなっているか…
覚悟はしていましたが、部屋のドアを開けると、
「うぁぁぁぁ」とうなるメイに戻っていました。
一歩でも部屋にはいろうとすると、1mくらい離れたところからダッシュしてきて、
本気で爪を飛ばしてくるので、部屋に入ることすらおぼつきません。
とりあえず足を保護しなくては。
車に戻り、寝るときに使っている毛布を取り出して、下半身に巻きつけました。

(客観的に見ればかなり不審なかっこうだとは思います)
「ほーらメイ、おかあさん帰ってきたよ。うちに入れてねー」となだめながら、
けっきょく入れてもらうまでに20分くらいかかってしまいました。

ひじから先のおびただしい傷は、血は止まっていました。
もともと猫の爪なので、そこまで深い傷ではないのですが、
ひと晩たってぱんぱんに腫れあがってしました。
今日はお風呂入りたいな。化膿する危険があるから、できるだけ濡らさないように。
(本当だったらお医者さんに行って化膿止めを処方してもらうべき事案です)
メイの攻撃をかわしながらなんとかお風呂にたどりつき、シャワーを浴びていると、
外で「にゃぁ、にゃぁ」とひっきりなしに鳴く声が聞こえます。
今朝と同じ、甘えモードのメイに戻っていました。

お風呂から出て、たくさんなでてあげました。
メイは目を細めて、体重を預けてくれます。

メイをなでながら思いました。
威嚇するのも、異常に甘えるのも、どちらも不安の裏返しなのでしょう。
置いていかれる不安、乱暴につかまえられる不安。
警戒する気持ち。甘えたい気持ち。
猫というものはけっして「自由」とか「気まぐれ」とかひとことでくくれるような動物ではなく、
たくさんの矛盾を抱えた、複雑な生き物なのだ。


翌日も朝は甘えモード。
仕事帰りはやはり威嚇されましたが、こんどは5分くらいで部屋に入れてくれました。
異常な甘えはしばらく続きました。
どこかそっけない、以前のメイに完全に戻ったのは、2週間くらいたってからでしょうか。
爪が一本、強くひっかきすぎたのか、
半分取れてぶらぶらになっていましたが、
それもやがて、新しく生えてきました。
やまねこの、倍くらいに腫れあがっていた両腕も、
そのうちいくつか傷跡を残して治っていきました。

翌週末に迫っていた資格試験は、
ほとんど一夜漬けになってしまいましたが、とにかくがむしゃらに勉強して、
なんとか合格することができました。


そして11月のある週末、
やまねこは三たび西伊豆の漁村をたずねました。
その頃には、メイはすっかり車での落ち着いた伴侶に戻っていました。
この来訪は、捜索依頼のちらしを配った家に、
「メイ見つかりました」というちらしを配るためでした。
今でも気にかけて、黄色い首輪の猫を探してくれている人がいるかもしれません。
心配をかけたまま放置するのは、いやだったのです。
100枚用意したポスターは、けっきょく1枚も使わないまま無駄になってしまいましたが、
メイが戻ってきてくれたことに比べたら、取るに足りないことでした。
覚悟したいたずら電話は、一本もかかってくることなく、
なんとなく、その漁村が前よりいっそう好きになりました。

職場では陰で「たかが猫のために、バカじゃねぇの」と言われたのも知っていますし、
知合いの中に「逃げられたんだってよ」とおもしろがって語る人たちがいたのも、
知っています。
人それぞれ、考え方はあると思いますが。

その日から「飼猫(飼犬)が迷子になりました。探してください」という貼り紙を見るたび、
いっそう心が痛みます。
あのときの自分と同じ苦しみを味わっている人がいるんだな、と思うからです。

やまねこは、幸運すぎました。
たくさんの幸運が重なりました。
とくにA氏が不在で、なおかつドアの鍵があいていた、なんていうのは、
ほんとうにありえない幸運だと思います。
(A氏がいたら、まず間違いなくメイは現れなかったからです)
もし今同じ苦しみを味わっている人がいたら、けっしてあきらめないでください。
できると思うことは、全部やってみてください。
必ず道は開ける、とは言いません。どうにもならないこともあると思いますが、
可能性はゼロではありません。
最悪の結果を恐れず、行動してみてください。

そんな願いをこめて、この文章を書きました。

「帰ってきた旅猫・メイの奇跡その1」完。

ですがまだまだ、メイのお話には続きがあるのです。
さらにさらにワイルドな、サバイバルのお話が。
次回から「帰ってきた旅猫・メイの奇跡その2」お楽しみに。





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2月11日(金・祝)のLIVE、概要が決まりました。

祖師ヶ谷大蔵ライブカフェエクレルシ→https://cafe-eclaircie.com
「昭和歌謡ライブ(歌声喫茶風)特別編:演歌特集」
OPEN13:40/START14:00/CHARGE\2,000+1D(アルコールの提供はありません)

なんと、1ステージ全曲演歌を歌います。
なぜ白羽の矢が立ったのか謎ですがw思いっきりチャレンジしてみたいと思いますので、
「どんな歌を?」と興味を持たれたかたは、ぜひ。

なお今回から配信は投げ銭制になります。
こちらのページから→https://www.ecllive.com/20220211
オミクロン株が猛威を振るっていてお出かけも難しいかと思いますが、
そんなかたはぜひおこたで配信を楽しんでくださいね。