帰ってきた旅猫・メイの奇跡 その1の13.旅猫、家に帰る。 | うちには、天使がいます。

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ピアノ弾き語り落ちこぼれシンガー・うたうやまねこと、そのパートナーゆかさん、そして寄り目のみけねこメイさんの、命の記録です。



・登場人物
<メイ>
3年前の5月にへその緒つきで捨てられていたところをやまねこと出会い、
それからずっといっしょに暮している、寄り目のみけねこ。
車でやまねこと旅をする「旅猫」に育ちました。
<やまねこ>
ライブハウスでピアノ弾き語りをする歌い手でしたが、
2004年当時はあまり休みのとれない会社に就職したので、活動は休みがち。
週末に海や山へ出かけるのが生きがいになっています。

・前回までのお話
2004年10月の3連休、西伊豆へ釣りに出かけたやまねこ。
2日めの夜、通りすがりの「A氏」に丘の上の別荘へと招かれ、
そこでメイを放してしまい、数分間目を離した隙にメイは姿を消してしまいました。
月曜日、連休最終日まる一日をかけての捜索もむなしく、ひとりうちに帰ったやまねこ。
ポスターとちらしで捜索を呼びかけることに決めて、
木曜日と金曜日でポスターとちらしを仕上げ、土曜日の夜、再び西伊豆へ。
翌朝早朝、A氏の別荘で、たまたま鍵のかかっていなかったドアから、
メイの生きている痕跡を発見しました。
ポスティングを半分ほど終え、また別荘へ向かったやまねこは、思いがけずメイと遭遇。
大立ち回りの末、なんとか保護。あとは長い帰り道が待っています。


A氏の別荘に別れを告げて、やまねこは車に戻りました。
もうすぐ夕方だし、そろそろ出発しなくては。メイは落ち着いてくれているだろうか。
車の中は、静かになっていました。メイの姿は見えませんでした。
どこかに隠れているようだ。注意深くドアを開けてみました。
ゆうべ寝たとき助手席の背もたれを倒して、そのままになっていたのですが、
その下から「うぁぁぁぁ」といううなり声が聞こえてきました。
ぜんぜん落ちついてくれてない。
ああ、本当にせめてリードにつないでおけばよかった、
その気になれば5秒もかからないことなのに。でもあのときはもう、限界だったな。
猛獣と化した猫を乗せて車を運転することが危険なのはわかっていましたが、
帰らないわけにもいきません。
とりあえず、後部座席に隠れてくれているのは好都合といえば好都合。
できるのは、なにかあったらいつでも路肩に寄せて停められるように、
注意深く運転することだけです。

血もある程度かさぶたになって固まってはいましたが、メイから腕を護るために、
とくに後部座席から狙われやすそうな左手にはぐるぐる巻きにタオルを巻いて、
不意のアタックに備えることにしました。
とにかく運転中に攻撃されないように祈るのみです。
慎重に慎重に、運転席に乗りこみました。
メイは出てくる気配はありません。
よかった。それでいい。
日曜日の夕方、うちに着くまで5時間くらいのドライブになるだろうけど、
無事に帰りつけますように。できればじっと隠れてておくれ。
エンジンをかけ、慎重にアクセルを踏み込み、
家路へと出発しました。

今のメイはとてもショックを受けて動転している。
当たり前だ。警戒心MAXになっているところを、いきなり首輪をつかまえられたんだから。
うちに着くころには、少し落ち着いていてくれるだろうか。
元のメイに戻ってくれるだろうか。
それともこのことは、メイの心に消せない傷を残してしまうのだろうか。
つかまえられたことだけではなく、
この一週間、山の中でひとりぼっちで過ごしたことも。

ぼんやり考えながら、ゆっくりゆっくり車を走らせました。
さすがに疲れている、と感じました。
この一週間まともに寝ていなかったのもあるし、
極度の緊張が解けたあとの、ぼーっとしたかんじ。

先週ひとりでうちに帰るときも「集中、集中」と何度もつぶやきましたが、
今回も何度かつぶやきました。
ただ先週と違うのは、喪失感や後悔で上の空になっているのではないことで、
なにかあったらこまめに休憩をとりながら帰ろうと決めていました。


2時間くらい走ったでしょうか。
伊豆半島から出るくらいまで走ったところで、
メイは背もたれの下から這いだして、近づいてきました。
うなってはいない。落ち着いてくれたのだろうか。
怖くはありましたが、タオルをぐるぐる巻きにしたまま左手をそっと差し出してみました。
メイはそっと、顔を寄せました。
しかし、じきに「フー」と言って離れていきました。
そして後ろのほうでまた「うぁぁぁ」とうなりはじめました。
うなってもいいよ。威嚇してもいいよ。
離れていてくれれば、今は。運転に支障がなければ。

高速に乗る?それとも念のために一般道で帰る?
高速に乗ってしまったら、どこでも車を停めるということはできなくなるけれど。
疲労感が勝ちました。高速に乗ろう。
こちらから刺激しなければ、攻撃されることはないはずだ。きっと。
その前に給油しておかなくちゃ。トイレも行きたいし。

ちょうどそのとき、メイはまた運転席に寄ってきたところでした。
タオルを巻いた左手でそっと頭をなでてあげて、
「いい子だ、メイ。少しだけ待っててね」
ガソリンを入れ、トイレに寄って車に戻り、ドアを開けると、
「うぁぁぁぁぁ!」ダッシュしてきました。
だめだ。少し目を離したら攻撃モードに戻ってしまった。

完全防護の左手で押しとどめるように後部座席に戻ってもらい、
再び発進して、高速に乗りました。

高速の上でも一度、メイはこちらに寄ってきました。
そっと左手を差し出すと、すりすりしてきました。
少しずつ落ち着いてきているかもしれない。
いい傾向には違いない。だけど、
メイはまたしばらくすると後部座席に戻ってしまい、
「うぁぁぁぁ」とうなっているのでした。

もうすぐうちに着く。
うちに着いたときに、ちょうどフレンドリーな状態になっていてくれればいいけれど。
という期待は、見事に裏切られました。
残念ながら「うぁぁぁぁ」のほうでしたが、
それでもとにかく、うちの駐車場に到着しました。
「帰ってきたよ、メイ。おうちだよ」


さて、どうやって車からうちに連れていったものか。
抱き上げたり首輪をつかんだりすることは、とても想像できませんでした。
辛抱強く「おいで」と言いながらペットキャリーをぽんぽん叩き続けて、
(それがなんの合図かはメイもわかっているはずです)
うなりながらではありますが、なんとか入ってくれました。

キャリーの中からは「ぎにゃにゃにゃ」という声と暴れる音が聞こえてきましたが、
階段を上ってやまねこの部屋に入り、キャリーの戸を開けました。
メイにとって一週間ぶりの、見慣れた部屋。
メイはもぞもぞとキャリーから這い出してきました。
当時やまねこが暮らしていた部屋は1DK。
DKの床にこたつが置いてあり、奥の部屋にデスクやピアノ、ベッドがあります。
メイはキャリーから出ると、こたつの下に隠れるように入っていき、
そこでまたうなり始めました。
やっぱり、すぐ落ち着けるわけもないよね。
まだ10月なのでこたつ布団はかけてありませんが、
メイはまるでこたつの下に籠城するかのように、
少しでも近づくと「プッ!」という奇声をあげてこちらにダッシュし、
パンチを飛ばしてきました。

いつになったら元にもどってくれるのだろうか。
焦らず、根気強く待つことしかできないのでしょう。

お風呂に入りたい。
でも、お風呂なんか浸かったら傷がめちゃくちゃ化膿してしまうだろうと思いました。

それに、なんといっても、疲れた。すごく疲れた。
でも、メイは戻ってきたんだ。
何か月かかってもいい覚悟だったことが、今日一日で終わったんだ。
眠い。
晩ごはんも食べず、そのままベッドに倒れて、
メイのうなり声を聞きながら眠りにつきました。




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3月26日のワンマンの前に、もう1本のLIVEが決まりました。
先日と同様、堤真耶さん主催の、
今回は「昭和歌謡ライブ」(つまりカバー曲のみ)しかも「演歌特集」ということで(!)
祖師ヶ谷大蔵ライブカフェエクレルシで、14時くらいからの開催です。
オミクロン株が猛威を振るっている中、お出かけも厳しいとは思いますが、
詳細は決まり次第こちらでお伝えしていきますね。