年末なので、この2年間で、日本の線毛機能不全症候群(PCD)研究がどのように進展したかを振り返ってみたいと思います。
過去2年間に日本では、診断技術の向上、日本人特有の遺伝因子に関する詳細な検討、そして国の公的支援の拡充という3つの柱で大きな進展がありました。
特に重要なポイントは以下のようにまとめられるのではないかと思います。
1. 2024年4月より「指定難病」に認定
最も大きなトピックは、2024年4月1日よりPCD(カルタゲナー症候群を含む)が厚生労働省の指定難病(告示番号340)に認定され、6月からは遺伝学的検査(PCDの26遺伝子)が保険収載されたことです。
これまで診断が難しかったケースでの医療費助成が可能になり、国内での症例登録や実態調査が実施できる基盤が整いました。
また日本鼻科学会により「線毛機能不全症候群の診療の手引き」が公表されています。
2. 特有の遺伝子バリアントの解明
近年の遺伝子解析技術(次世代シーケンサー)の普及により、日本人のPCDに特有の原因遺伝子バリアントが明らかになってきました。
DRC1遺伝子バリアント:日本や韓国で多く見られる DRC1遺伝子のバリアントが、遠い祖先に由来すること(創始者効果)が示唆されています。
診断への応用:日本人のPCDにおいて、従来の線毛の構造異常を見るための電子顕微鏡検査では見逃されやすい「見かけ上、構造は正常だが、動きが悪い」ケースの中に、この DRC1 変異が隠れていることが判明し、遺伝子診断の重要性が再認識されました。
3. 次世代の診断・解析技術の開発
従来の線毛の動きを顕微鏡で見る手法や電子顕微鏡で構造を見る手法に加え、さらに新しいアプローチの研究が進んでいます。
RNA-seqの活用:遺伝子検査で見つからない未知の変異を特定するため、鼻粘膜細胞のRNAを解析する手法(RNA-seq)が、特に HYDIN遺伝子 などの解析困難な領域で有効であることが報告されました。
iPS細胞とオルガノイド:患者由来のiPS細胞から線毛細胞(呼吸上皮)を作成し、体外で病態を再現する研究により、新薬のスクリーニング(薬探し)にも役立つことが期待されています。
4. 臨床データの蓄積
これまで欧米のデータに頼っていた部分が多かったのですが、日本独自の臨床データが少しずつまとまってきました。
診断の遅れ:日本の症例では、欧米に比べて成人になってから診断されるケースが多いことが指摘されています。
不妊症との関連:男性不妊(精子無力症)や女性の異所性妊娠をきっかけにPCDが発見されるケースについての解析が注目されます。
まとめ:今後の展望
この間に日本のPCDは「実態がよく分からない稀な病気」から、「特定の遺伝子バリアント(特に日本人特有のものが約半数を占める)を明らかにすることで、早期診断と公的支援が可能な病気」へと大きく変化しました。
今後は、これらの遺伝学的な研究成果をもとに、幼少期からの「根本的な治療法」の開発へと向かっていくことが求められ、それには、国内では小児科、耳鼻咽喉科、呼吸器内科、泌尿器科、産婦人科、遺伝診療科、その他関連する診療科との連携、国外では治療をめぐって欧米との連携が必要になるものと思われますので、日本で隠れた患者さんが見逃されていて、将来的に医学の進歩から取り残されることのないように、今後も啓発に努めたいと思います。