内臓逆位、慢性気道感染症などの臨床症状、所見から線毛機能不全症候群が疑われて確定診断へと進む時、ざっくりいうと、米国では、鼻腔一酸化窒素測定でスクリーニング⇒遺伝子検査、それで確定できなければ⇒電子顕微鏡検査という順番です。ヨーロッパでは、鼻腔一酸化窒素測定/高速ビデオ顕微鏡検査でスクリーニング⇒電子顕微鏡検査、それで確定できなければ⇒遺伝子検査という道筋が描かれています。遺伝子検査は現在、急速に進歩しているので、年々その重みは増しています。

日本では主要な16遺伝子の検査(近いうちにさらに検査遺伝子数が増えるのではと期待されます)が全国の医療機関で外注できるようになりましたので、米国方式に近いやり方で進む手が考えられます。

 

https://www.genetest.jp/documents/tests/insured/K010-136_v2.pdf

 

つまり、遺伝子検査で確定できなければ⇒電子顕微鏡検査という順番です。一方、この疾患を積極的に診断している「専門」施設では、同時に異なるいくつかの方法を試すことができますので、短い期間でできる限りの結果を得たい場合、たとえば指定難病の申請が保留になった場合とかにおすすめです。ただし、遠方にお住まいの場合、長距離移動は大変です。もし、保留ではなく再申請となった場合、時間的な余裕があるのであれば、検査費用はかかりますが、まず地元でできる遺伝子検査をしておくのは一法です。そこで診断がついてしまえば、指定難病の申請上definiteとなり、交通費、宿泊費をかけて不慣れな専門施設に受診する必要がなくなります。一方、遺伝子で診断がつかない場合は、専門施設に行って電子顕微鏡検査をしてprobableを得るか、しばらく申請を先延ばしにして、もしかしたらそのうち、電子顕微鏡検査も保険収載されて地元でも検査ができるようになるかもしれない(まったく確証はありませんが)、それまで最低2年以上待つという選択肢もあり得ます。医学の発展のためといって、診断のための確定検査を急かすようなことがあってはいけないと思っています。

難しい検査を診断基準に入れるのが悪いという意見がありますが、実際のところ、線毛機能不全症候群の人の過半数は、難しい検査なしには臨床診断すら不可能です。診断の難しさ、治療の難しさの両方がまさに難病だと思います。なお困ったことに難しい検査をやれば、確実に診断できるかというとそうでもありません。すんなり診断がつく方も多いのですが、とても難しい場合もあります。遺伝子検査なのだから、容易に白黒つけられるだろうと思われるかもしれませんが、今の医学水準ではそんなに簡単ではないです。いまだに体の中身でわからないことは山ほどあります。

それでは、将来、100%診断できるような検査が開発されて、全国に普及するまで指定難病にしないでおきましょうか、というのでは、あまりに融通が効かないので、現時点の不完全な体制のままで、見切り発車的に線毛機能不全症候群は指定難病になったと理解しています。それについて国が責められるのは少し理不尽なように思えます。遺伝子検査が全国でできるようになればそれで良いのではという考えに対して、遺伝子以外の検査も組み入れて、どの線毛検査方式でも確かな異常が見られれば、申請を受理するというのが今の基準です。むしろ間口を広くしようとしているので、決して狭めて入れないようにしているのではないと私は感じています。

地域で希少疾患の特殊検査をやりたがらないのはやはり採算がとれないからでしょう。医療機関で高額な検査機器を購入しても、年に1人とか2人とかしか検査に来られないのでは不採算になります。これは特殊検査の必要な希少疾患には常につきまとう問題です。国はどの病気に補助を厚くすべきか?そこは限られた医療資源の配分という大きく悩ましいテーマにつながっていきます。