お子様が線毛機能不全症を患っておられる方へ向けてのメッセージです。

どの病気でもそうですが、親御さんの心労はとても大きいものと思います。同じような悩みを抱えておられる方にも役立つかもしれないと思い、研究者としての私の思いを書かせていただきます。

 

小児慢性特定疾病(小慢)からのシームレスな移行は、厚労省の考え方としても、指定難病において大事なポイントと聞いております。しかし、小慢は児童福祉法に基づき、指定難病は難病法に基づく措置なので、診断基準の厳密さが違い、長らく線毛機能不全症は、指定難病の要件である、客観的診断基準を満たさないとされ、この4月まで指定難病には認められませんでした。
特に内臓逆位のない場合、その症状は他のさまざまな原発性免疫不全症や日本ではまれな嚢胞性線維症ともかなり似通っているので、診断にたどりつくためには、どうしても電子顕微鏡検査や遺伝子診断など特殊検査に頼らざるを得ない状況です。ここ10数年の欧米を中心とした遺伝子診断の進歩は目を見張るものがあります。それでもわかりやすい遺伝子異常とわかりにくい異常があり、診断がつかないことも少なからずあります。

電子顕微鏡所見の記載法も、ここ10数年で数多くの原因遺伝子が発見されたことに伴い、それら遺伝子異常と線毛の微細形態異常とを対比させることで進歩してきました。しかし日本では専門施設以外では、国際的に標準となる所見の記載法は普及していない現状があります。具体的には、線毛の見られる多数の電子顕微鏡写真で異常な線毛の割合を計算するのが一般的ですが、そのような報告書を出してくる検査会社を私は見たことがありません(さらにいまだに保険収載されていない検査となりますので、検査会社に発注すると病院の持ち出しで数万円以上かかります)。また電子顕微鏡を施設内で維持するのも大変で、専門の技師さんの数も増えないと聞いています。

また、新規治療法の萌芽はまだ臨床の場には届きませんが、国際的にはメッセンジャーRNAを補充する方法など、試験管内ではいろいろ始まってますので、私自身は将来に希望を持っています。先天性の病気ではありますが、いろいろやりようのある時代に入ってくると思います。ただ、新規治療は確実に高額なので、あらかじめ医療費の補助が得られるようにしておかないと、後がきついのではないかと思います。


指定難病を受けるとき、診断基準に合っているかどうかは、そういうわけで、皆様かなり苦労されるのではないかと思いますが、内臓逆位のある方もない方も診断法は同じです。何とか理解のある主治医の先生方のご尽力で、専門施設と相談をしながら条件をクリアされることをお祈りしております(古い検査でも専門家が見れば申請基準に沿って解釈できる可能性があると思われます)。