線毛機能不全症候群では、吸気を通じて体内に入ってくる病原体を外に押し出す力が弱いため、鼻や耳、気管支、肺の感染症を起こしやすいことは知られていますが、これまで欧米の文献では、初めは気道にインフルエンザ菌などが現れて、そのうち緑膿菌が検出されるのが一般的で、非結核性抗酸菌がみつかることはかなり少ないと言われてきました(Davis SD, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2019;199(2):190-198)。

これは小児の場合に特に当てはまることで、古い米国の文献(Noone PG, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2004;169(4):459-67)では、線毛機能不全症候群の方々に3回以上の喀痰検査を施行した結果、成人では11%(5/44名)に同一の非結核性抗酸菌 M. avium/intracellulareM. abscessusなどの菌種が見つかったのですが、小児では1例も見つからなかったと報告されています(0/15名)。同じグループによるおそらく重複のある集団でも成人で14%(4/29名)、小児で0%(0/16名)と報告されています(Kennedy MP, et al. AJR Am J Roentgenol. 2007;188(5):1232-8)。欧州からは、2007年のATSガイドラインに準じた方法で同様の検討をおこなった結果、成人の線毛機能不全症候群では、3%(5/151名)に過ぎないと報告されています(Shah A, et al. Eur Respir J. 2016;48(2):441-50)。この報告では菌種情報が記載されていません。

日本では遺伝学的検査により、ようやく最近、線毛機能不全症候群の診断が、かなり正確にできるようになってきたところで、まだまとまった報告がありません。1985〜2015年までの30年間、主に電子顕微鏡検査に基づいた報告をまとめた系統レビューでは0.9%(3/316名)に非結核性抗酸菌検出の記載があるだけです(Inaba A, Furuhata M, et al. BMC Pulm Med. 2019;19(1):135)。お隣の韓国では、逆に肺の非結核性抗酸菌症が先に診断されていて、かつ線毛機能不全症候群であることが臨床的に疑われた13名(16〜59歳)の遺伝子検査を行ったところ、4名に線毛機能不全症候群と考えてほぼ間違えのない遺伝子異常が認められたということです(Cho EH, et al. Yonsei Med J. 2021;62(3):224-230)。

医療機関で喀痰検査を行う時に、一般細菌検査と抗酸菌検査は別々に行うので、これまで日本では、しばしば先入観が入り、一般細菌検査が先に行われていた可能性も考えられます。最近、東アジア地域では欧米より非結核抗酸菌症が多くみられることがたびたび報告され、呼吸器領域では非結核性抗酸菌が注目されていますので、今後、日本でも線毛機能不全症候群を背景とした非結核抗酸菌症の報告が増えるのではないかと推測しています。

そのとき、繊毛の力がもともと弱いために生じる非結核性抗酸菌症と、女性に見られやすい原因不明の非結核性抗酸菌(MAC)症とではどのような違いがあるのか、もし違いがある場合、治療法にも違いが出てくる可能性がありますので大事な問題と考えています。また線毛機能不全症候群では、一般細菌の攻撃に対しても弱いわけですが、非結核性抗酸菌症の状態では、一般細菌はさらに定着しやすくなるのか、むしろ定着しにくくなるのか、まだ十分にわかっていないように思います。また線毛機能不全症候群と一括りに言ってもさまざまな遺伝子異常がありますので、その種類によって、取り付く菌種に異なる傾向があるかどうかも今後の課題です。このような問題が一つ一つ解決されていくと、新たな医療につながるのではないかと期待されます。

線毛機能不全症候群は稀な病気で、日本の現状では情報がひとところに集約されていません。そのため、これはこうだとまとめて全体像を示すことが難しいです。もし診断が確定していてほかに支障がなければ、指定難病登録をしていただけると、情報を集積することで得られる新しい知見に基づいた診断/治療法の開発にもつながりますので、いろいろ迷っておられる方は、どうぞご検討のほどお願いいたします。

まとめです。
・    欧米では線毛機能不全症候群の成人例で非結核性抗酸菌症の合併があるが、頻度は高くない。
・    日本ではまだ情報の集積が進んでいないため、十分にデータが得られていないが、東アジア諸国の非結核性抗酸菌症が欧米より高頻度で見られるため、線毛機能不全症候群でも同様の傾向が見られるかもしれない。
・    多数の臨床データから慢性気道感染の原因となる菌種とその背景との関係を明らかにすることで、新しい診断/治療法の開発が推進される。