原発性線毛機能不全症候群(PCD)の原因となる遺伝子群のうち、DNAH5遺伝子の異常は世界的に広く知られています。この異常が内臓逆位を含むPCDの原因としてドイツの研究者によって初めて報告されたのは、2002年のことでした(Olbrich H, et al. Nat Genet. 2002;30(2):143-4)。2006年には欧米でDNAH5の異常がPCDの原因として最も頻繁に見られると報告されました(Hornef N, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2006;174(2):120-6)。一方、日本で初めて正式な形でDNAH5遺伝子の異常によるPCDが報告されたのは2016年でした(Kano G, et al. Mol Med Rep. 2016;14(6):5077-5083)が、その後は日本でも次々にこのタイプのPCDが報告されており、現在、日本ではDRC12024-11-04)に次いで、DNAH5の異常が2番目に多い原因と報告されています(primary ciliary dyskinesia Japaneseで検索をかけるといくつか文献が見つかります)。

 

このDNAH5遺伝子の異常により引き起こされる病態は、PCDに典型的なものです。約半数に内臓逆位が認められて(カルタゲナー症候群)、電子顕微鏡検査で比較的容易に外側ダイニン腕(ダイニン外腕)の欠損が確認され、高速ビデオ顕微鏡検査では線毛の動きがほとんど見られません。DNAH5遺伝子は、線毛を動かすのに必須の構造に欠かせないタンパク質を作り出します。遺伝子自体が非常に大きく、出来上がったタンパク質は、4,000以上のアミノ酸から成り立っています。こういう大きな遺伝子なので、そのさまざまな部分に変異が入ると機能が果たせなくなってしまいます。特別な場合を除いて、父方由来と母方由来では別の変異が見られることが多く、片方だけなら発病しないのですが、それらが偶然合わさる、つまり「両アレルに異なる病原性変異がある」とPCDの症状を示すことになります(2024-09-17)。この場合、ご両親のDNAを調べて複合ヘテロという状態を証明するか、電子顕微鏡検査で特徴所見を見出さないと本当の意味では確定診断されないことになりますので、特にご両親に協力を得られにくい成人での診断には、電子顕微鏡検査の持つ意味合いが大きくなります。