これは気管支拡張症に関する新しい考え方を提唱した総説で、昨年11月に権威のある国際誌に掲載されました。

 

現在、気管支拡張症という病気は、気道の「粘液排出障害」、「細菌感染」、「炎症」、「組織破壊と変形」という主に4つの要素が複雑に絡み合って進展していくものと考えられています。この考え方を最近の研究者たちは悪渦(vicious voltex)仮説などと言っています。著者らはこの総説の中で、気管支拡張症におけるこれら4つの要素のうち、「細菌感染」の役割をあまり強調せずに、「炎症」が病気の進行や悪化において中心的な役割を果たすのではないかと論じています。

 

年配の方々はご存知かもしれませんが、気管支喘息の治療法というのは、1980年代から90年代にかけて大きく変わりました。それまでは、直接問題となる気道の平滑筋収縮に主眼を置いた治療が行われていましたが、それでも喘息の大きな発作によってしばしば亡くなる方がおられました。現在ではその背景にある気道炎症の抑制に重点が置かれるようになり、吸入ステロイド薬が治療の中心に据えられたことで、多くの場合、発作に至らずに喘息をコントールすることが可能になりました。

 

気管支拡張症では一般に好中球(白血球の一種)による炎症が主体ですので、気管支喘息と同じ治療を行うことは(一部の好酸球炎症主体の病態を除いては)推奨されていませんが、この病気においても「感染」を抑えることが第一であるという今までの考え方を変えて、過剰な炎症による組織破壊の進行や急激な悪化を予防することに重点を置くべきではないかというのがこの総説の骨子です。これまで感染を抑えることを目的として、海外では緑膿菌に対する吸入抗菌薬を用いた治験がいくつか行われましたが、長期的な効果があまりよくないことが背景にあるようです。

 

さらにこの総説の中では、気管支拡張症の治療には早期の介入が重要であると強調されています。気道炎症が過剰に生じやすいリスクのある個人を早い時期に特定し、「炎症」を抑える治療を行うことが、病気の進行を防ぐ鍵であると述べられています。以前にも触れましたように、昨今、好中球が作るジペプチジルペプチダーゼ-1(DPP-1)という酵素を阻害する薬剤が開発され(2024-06-06)、ほかにも過剰な炎症反応や組織損傷に働く物質の活性化を抑える治療薬が有望視されています(2024-09-16)。

 

気管支拡張症を炎症性疾患として捉えることで、確かに治療の新たな可能性が広がり、近い将来、患者のケアと病態の改善につながることが期待されます。ただ気になることは、早く治療を始めて、炎症を抑えつつ、気管支拡張がひどくなるのを抑えていかなければ、となりますと、高価な薬を長期にわたって服用しなければならなくなるのではという心配が生じます。可能であれば、指定難病の認定など国の援助を受けられるようにしておくことが望まれます。