5/12発売予定の=LOVE 1stアルバム「全部、内緒。」のリード曲「桜の咲く音がした」が、2021/3/23にyoutubeでプレミアム公開されました。

 

 

すでに多くのファンが感想や考察を投稿していて、私のアメブロのフォローフィールドも桜色一色に染まりましたw。楽曲はとてもいい反応のようですね。

ここでは少し角度を変えて、高橋栄樹(えいき)という監督から今回のMVを考えみたいと思います。

 

「桜の咲く音がした」

作詞:指原莉乃/作曲:水流(つる)雄一朗,室屋優美,KIKI/編曲:湯浅篤/Sound Director:矢山貴之(Sony Music) 

[Music Video] 

監督:高橋栄樹/振付:CRE8BOY/Producer:三池智之(north river)

 

CRE8BOY(クリエイトボーイ)さんらしい優美なダンスシーンの振付、そして若手の水流(つる)雄一朗さん、室屋優美さん、KIKIさんコライトによる新鮮な楽曲。

MVプロデューサーの三池さんがこうtweetしていますね。

 

 

私は映像関係に近いせいか、まずMVに目がいってしまうのですが、今回の監督は、MV界の巨匠といっていい高橋栄樹監督(1965- )です。日本のMV界で90年代から活躍してきた先駆者の一人で、高橋監督を師と仰ぐ若手映像ディレクターも少なくありません。MVもキャリアが長いので多岐に渡りますが、AKB楽曲もかなりたくさん撮っています。AKBのドキュメンタリー映画3本や最近の欅坂のドキュメンタリー「僕たちの嘘と真実」も監督しています。

 

90年代半ば、THE YELLOW MONKEY(イエモン)の主要楽曲のMVで知られ、イエローモンキーメンバーも出演した「trancemission トランスミッション」(99)というSFっぽい長編劇映画も監督しています。私はイエローモンキーのライトファン(武道館には何度か行きました)なのでずっと高橋監督の仕事は見てきたのですが、当初はアートっぽい映画青年と思っていた印象は途中から大きく変わりました。

 

ファンにしか伝わらない部分もありますが、たとえばイエモンが活動休止中に作詞作曲者でメインボーカルの吉井和哉がソロ活動していた時期の「バッカ」(2007)の6分半のMVなど、本当にびっくりするような作品でした。

 

(シングル「バッカ」に収録のDVDはもっと鮮明です)

 

聖夜のパーソナルな想いを歌っているこの曲のMVには、歌唱シーンは一切なく、冒頭で「銀河鉄道の夜」が引用された後、イントロが流れるまで2分間のドラマシーン(居酒屋であがた森魚、松田洋治が会話、傍にスーツ姿の吉井)があり、歌が流れ始めた後もサラリーマンらしき吉井が酔って街をさまよい(建物には吉井の子供時代や父の映像をプロジェクション)、ヤクザっぽい二人組に絡まれ、パーソナルな記憶の空間に入り込んでいくもの。

旅芸人だった父が若死にしたという吉井の自伝的要素を絡めつつ、劇中にイエローモンキーの代表曲の一つ「JAM」(1996)のMV(監督は吉井和哉自身)が何度か大胆に引用され、女の子と男の子のカットが出てきます。後半の不思議な列車内で、その二人の子供が大人になった10数年後の姿として同じ衣装で現れ、イエモンファンは何とも形容しがたい衝撃と感動に襲われたものでした(子役だった女性を見つけ出すのが大変だったそうです)。

 

正直、映画であれMVであれこんな作品を見たことはありません。

こちらにMVに関する詳細な解説もあります。

 

 

もう一つ、強く印象に残っているのはHKT48の「大人列車」(2015)のMVです。

ネットには歌唱シーンのみのshort ver.(1分10秒)が公式サイトからアップされていますが、これを見てもほとんど何もわかりません。

何しろこのMVは10分半(!)もあり、ドラマシーンがメインなのです(AKB「Green Flash」typeHにMVフル収録)。

曲のイントロが流れるまで3分半ドラマが続き、しかも曲のセンターは兒玉遥(はるっぴ)なのにMVは宮脇咲良が主役なのです。物語上どうしても咲良でないと成り立たなかったからで、運営の当初の希望ははるっぴで作ってほしかったようです。

 

20年後の2035年のカレンダーが出てくるどこかの(寄宿制と思われる)高校で悪質ないじめに会い消えてしまおうと思っている咲良と、彼女を守護者のように見つめる制服姿の少女たち(昔の列車事故で亡くなった15人の生徒)。直接的交流のない2つの世界の住人たちの物語が、歌詞の世界を超えて展開し、台詞や咲良の独白も多くあります。とくに、はるっぴは咲良の分身のような、聖母のような守護者として描かれています。

 

曲が終わった後にも3分弱ドラマが続き、宮脇咲良が「走り出す列車の音がそのとき確かに遠くで聞こえていた。そして私はなぜかサクラと名付けてくれた母親のことを思い出していた」とナレーションで語り、この長いMVは終わるのです。

長さといい、予算の掛け方といい、キングってすげえな、と思ったのを覚えています。カップリング曲のMVですよ?(HKTはユニバーサルが所属レーベル)

ちなみに「大人列車」のプロデューサーにも三池智之さんが入っていました。

(アイドル時代の指原P、「大人列車」MVより)

 

このショートムーヴィーの名品というべきMVはその年の傑作MVとして話題になりましたが、AKBファンの多くは、この内容が同じ監督による「10年桜」(2009)とリンクしていると気づき、監督自身もそれについて後に語ったことがあります。

 

「10年桜」はAKBブレイク期の明るい卒業ソング・桜ソングで「卒業はプロセスさ 再会の誓い/10年後にまた会おう この場所で待ってるよ」と歌う井上ヨシマサ作曲のいわゆる"神曲"の一つです(楽曲は前田敦子と松井珠理奈のWセンター)。

MVは10年後の2019年から始まり、前田敦子と大島優子が再会するドラマシーンで優子は妊娠してお腹が大きくなっています。「来るかなアイツ」と10年前にバスを降りたまま行方不明の人物(たかみな)を暗示して、曲が始まります。

 

10年前の卒業式。楽しい学園シーンやパーティーのようなバスシーンの後半で、次々とメンバーがバスから降りていくなか、(銀河鉄道の夜みたいに)とてもミステリアスな形で別れを告げるたかみなが前田敦子に手紙を残して去ってしまいます。10年後、たかみなは本当に現れたのでしょうか?(校庭に集まった3人は手を振っているのですが)

そして「ねえ、子供の名前考えた?」と聞かれた優子は「女の子だったらねぇ、サクラ」「え?」「な訳ないでしょ」と冗談めかしてMVは終わったのです。

 

見たことがない方はぜひ一度どうぞ。

あまり映りませんが、さっしーも選抜メンバー20人の一人でした。

 

「大人列車」の2035年とは「10年桜」の10年後(2019年)から16年後で、当時の宮脇咲良の実年齢(16-17才)に合致しています。

 

高橋栄樹監督はMVをただの楽曲プロモーションではなく「作品」と考えていて、作品間のリンクを作ったり大胆な引用を行い、プロモーションには不要なドラマシーンにこだわって「もう一つの(楽曲の)世界」を構築しようとしたりします。

それは、作品を私物化して自分のやりたいことを勝手にやっているのとは違って、歌詞の世界や作者・グループの込めた意味を勘案しつつ、そこから(歌詞を絵解きするのではない)もう一つの世界を創り出しているのです。

 

イコノイ関係では、高橋監督はノイミーの1stソング「≠ME」のMVを演出されていますが、そこでは新しいグループとメンバーと楽曲のプロモーションに徹していて、新たなアイドルグループの出発を陸上の短距離走に例えて祝福しているようなフラットな作品となっていました。

 

 

眩しい夏の日差し。緑に囲まれた屋外競技場と白い室内で踊るメンバーたち。長距離でもリレーでもなく、短距離のゴールを競う姿は、オーディションを勝ち抜き、今スタート地点に立っている彼女たちにふさわしい気もしました。その後、ノイミーのMVは主に若手女性監督が手がけることになるので、最初に高橋監督を起用したのは異例だったかもしれません。

(追記)見落としていましたが、「Documentary of ≠ME」のepisode0とepisode1(×12人)の監督も高橋栄樹監督だったんですね!いろいろお世話になっています。

(「≠ME」演出中の高橋栄樹監督、Documentary of ≠ME episode2より。ノイミーのカラーであるエメラルドグリーンのシャツを着ておられるように見えます)

 

 

前置きがとても長くなってしまいましたが、やっとイコラブの新曲「桜の咲く音がした」のMVの話になります。

高橋栄樹監督にとって「10年桜」以来の桜ソングMVとのことです。

 

AKBやHKTではアルバムのリード曲(ときに何がリード曲かわからないことすらあった)はMVが作られないことが多かったと思います。逆に日向坂のアルバムリード曲「アザトカワイイ」は(CMタイアップもあり)部外者にはまるでシングルリリース曲のように宣伝されていた記憶があります。

今回、アルバム発売の1月半も前にリード曲MVが公開されたのは、桜の満開時期に合わせたとも思えますが、他にも理由があるのかもしれません。

 

「桜の咲く音がした」MVは、二重(または三重)の構造になっていて、「桜の咲く音がした」という楽曲の中で「nekoze。」という架空の高校生ガールズバンドがこの曲を作り、歌っています。

ベース&PCマニピュレートみりにゃ(大谷映美里)、キーボード&ボーカルひとみ(髙松瞳)、ボーカルまいか(佐々木舞香)というちょっと変わった編成の3人組バンド(スリーピースバンド、担当楽器等は5/1(土)17:00-のいこのいch「nekoze。スペシャルトークライブ」での自己紹介による)が物語の核にあり、主人公はこの曲を作詞している瞳のようです。

 

 

みりにゃが楽器のコードをミキサーに接続しているシーンなど、(ベースを弾くのもですが)ちょっとギャップがあって、らしくないところが面白いですね。

 

 

また、瞳の書く字は「か」や「が」の線(点)が長いという特徴があり、ノートに走り書きされた歌詞は瞳自身の字と思われます。

 

 

そしてMV冒頭からキーボードの一つの鍵盤の音(ミ)が出ないことが何度も強調されています。

 

 

あとからブルーのリボンが引き出されて音も出るようになるのですが、主人公の心が晴れない、何か引っかかった感じが伝わります。

 

で、一番ふしぎなシーンが、(齊藤)なぎさが目当ての男子を列車内に見つけて乗り込むときに、嬉しそうななぎさと泣いているポニーテールの瞳(その傍で慰める舞香)を何度か切り返すところです。泣きながらこの歌の歌詞を書いているようです。

瞳は失恋したのでしょうか? それともバンドに関することなのか? なぎさは歌詞の中の初恋を知った主人公なのか?(だとしたら劇中ではなぎさは瞳の空想の人物か?)

 

 

この泣いている瞳と音の出ない鍵盤、そして桜の開花(初恋)もつながるようです。音が出て(あるいはブルーのリボンを見て?)瞳の表情も心のつかえが取れたように明るくなり、そのあと遠くを見つめるようなまなざしに変わります。

このバンドと瞳の表情にどんなドラマやストーリーが隠されているのでしょうか? そして、瞳となぎさの関係はどういうものなのでしょう? 

今はまだ「全部、内緒。」のようですが、歌詞からは推測できないドラマの世界が高橋栄樹のMVにはきっとあるはずです。

 

youtubeの概要欄にはこうあります。

YouTube ver.の前後にドラマシーンが付いた、 アルバムver.のMVはTypeAのブルーレイでご覧いただけます。

 

瞳さんもドラマシーンで「全てがわかるようになっている」とtweetしています。

 

 

まさか10分超ということはないでしょうが、アルバムver.のドラマシーンがどういうものになり、瞳の物語や「nekoze。」の謎をどう解明してくれるのか気になります。

ここで取り上げた「10年桜」「大人列車」「バッカ」は、すべてドラマシーンが(楽曲や歌詞の世界を超えて)重要な意味を持っていたので、「桜の咲く音がした」にもそういうドラマを期待してしまいます。

 

 

 

アルバム発売後にドラマver.を見てこの記事の続編を書ければと思い、「高橋栄樹の世界①」としてみました。

 

 

(3/25追記)

高橋栄樹さんのtwitterで本記事について言及していただきました。SNSでご本人に直接触れていただいたことに驚き恐縮すると同時に、記して感謝いたします。

 

(6/8追記)

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