肩こりと眼の関係!自宅でできる対策は意味がない? | 西早稲田眼科のブログ

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肩こりって病気の名前なの?

「肩こり」は症状を表す言葉であり、疾患名(病気の名前)ではありません。

「肩こり」は明確な定義がなく、病因も正確には分析されていません。

一応の分類として「本態性肩こり」「症候性肩こり」「心因性肩こり」があります。

 

首の後ろから肩にかけての不快感(痛み、重い感じ、硬くなった感じ、疲労感など)を何となく「肩こり」と表現していて、そのうちの原因がより直接的なものを「本態性肩こり」、他の疾患が症状を引き起こしている場合を「症候性肩こり」、症状が心因性であるものを「心因性肩こり」と分類しています。

 

この中で「心因性肩こり」は眼とは直接的な関りはあまりないといえます。この文章では「本態性肩こりと眼の関係」「症候性肩こりと眼の関係」につき説明させていただきます。

本態性肩こり

本態性肩こりは特別な基礎疾患がなく、かつ肩こり症状の発症を説明できるわかりやすい理由がある状態のことです。

 

理由としては

  • 不良姿勢
  • 運動不足による筋力低下
  • 不適切な運動
  • 過労
  • 寒冷
  • ストレス
  • 加齢

などが挙げられます。

本態性肩こりと眼疾患の関連性

本態性肩こりはその定義上からも眼疾患とは直接的な関連はありません。

 

しかし、たまたま一つの原因が肩こりと眼症状の両方を引き起こすことはあり得ますし、共通の原因で引き起こされた独立した2つの事象を関連性があるとしてとらえてしまうことはごく自然なことではあります。

 

リモートワークで急増している症状

これに該当する最もありがちな状況は、VDT(PCディスプレイなどのデジタルデバイス画面を見る仕事)による長時間にわたる過度の前傾姿勢の結果引き起こされる「本態性肩こり」と「調節性眼精疲労」です。

 

長時間にわたる過度の前傾姿勢は重い頭部を支えるために僧帽筋を始めとする頭部を支える筋肉の過度の緊張を強いることになり、その結果として肩こり症状を惹起します。と同時に目から見ようとするもの(想定としてはPCディスプレイ)までの距離が短くなり、ピント合わせの筋肉(毛様筋)の過度の緊張を強いることになり、その結果として眼精疲労を惹起します。

 

眼精疲労対策

この場合の自宅でできる対策は

VDT作業時の姿勢を正すこと

です。

 

 ついでに本態性肩こりの対処法は、原因ごとに

  • 適度な運動
  • 休息
  • 保温
  • ストレス除去
  • 抗加齢

などが挙げられます。

症候性肩こり

一般的な本態性肩こりの対処法を試しても症状の改善が認められない場合に、症候性肩こりを疑います。

 

症候性肩こりの原因

症候性肩こりの原因となる疾患は

  • 整形外科疾患
  • 内科・外科疾患
  • 眼科疾患
  • 耳鼻咽喉科疾患
  • 婦人科疾患
  • 歯科疾患
  • その他

と多岐にわたり、当然原因毎に対処は異なります。

 

「眼科疾患」として挙げられているのは

  • 視力障害
  • 緑内障
  • 眼精疲労

です。

要するに原因が明確ではない肩こり症状がある場合、その原因が「視力障害」「緑内障」「眼精疲労」である可能性がある、という事です。この中で、まず「眼精疲労」について言及します。

 

症候性肩こりと眼精疲労

眼精疲労は本態性肩こりでも言及されていますが、本態性肩こりにおける眼精疲労はたまたま同じ原因で異なる2つの病態が引き起こされている状態です。

これに対し、症候性肩こりにおける「眼精疲労による肩こり」は眼精疲労が原因で、肩こりが結果という状態です。

 

この2つの何が違うかというと、前者の場合は症状を軽減させるために上記の対処法が有効と考えられますが、後者ではたまたま原因となる疾患が上記の対処法で軽減する物でなければ無効であることです。

 

仮に肩こり症状が「眼精疲労による症候性肩こり」であるとわかっているならば、その対処法は

  • なるべく遠くを見る機会を増やす
  • 近視の場合、近くを見るときの矯正の度数を落とす
  • 近視であり裸眼で近くを見る作業が可能な場合は裸眼でやる
  • 裸眼もしくはコンタクト装用で近くを見る作業をしている場合、老眼鏡を使用する

等が考えられます。

 

要するに、ピント合わせの機能を司る筋肉の負担を減らすことによって症状の改善が見込めます。

但し、この症状が「眼精疲労による症候性肩こり」であるかどうかを明確にする検査はありません。

「眼精疲労の治療をした結果肩こり症状が改善した」という事が確認できてはじめてこの症状が「眼精疲労による症候性肩こり」であったといえます。

 

 「眼精疲労による症候性肩こり」の発症機序として自律神経系の関与が考察されています。

「毛様筋が緊張している状態は副交感神経が優位の状態であり、この状態が持続すると末梢の血流を低下させ、肩こりを発症させると考えられる」とのことです。

この説明は私的には理解しがたい部分もありますが、これが真実であるならばこの肩こりは「眼精疲労による症候性肩こり」ではなく「自律神経失調による症候性肩こり」と考えるべきものであり、肩こりの治療としては眼精疲労よりも「自律神経失調」もしくは「末梢の血流低下」をターゲットにする方がより直接的である可能性があります。

 

自宅でできる対策への過度な期待

タイトルが「自宅でできる対策」であるので恐縮ですが、実際には自宅でできる対策は限られていると考えた方がいいです。

こういうタイトルの文章が及ぼす影響として最も避けなくてはいけないのは、この対策に過剰な期待をして徒に時間を費やした結果、速やかに適切な治療をしていれば治った疾患が手遅れの状態になってしまう事態です。

 

「視力障害による症候性肩こり」「緑内障による症候性肩こり」が一般的かどうかはわかりません。

しかしもし「視力障害」「緑内障」の可能性があるのであれば、眼科医としてはいずれも放置していい状態とは考えられません。

肩こり症状があって通常の対策で解決しない場合、まず整形外科の受診を考えると思いますが、結果充分な症状の改善が得られなかった場合には可能な限り眼科も受診し「視力障害」「緑内障」の有無をチェックすべきでしょう。