ONE DAY 第6話 | 二輪屋イサミ 局長のブログ
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          ONE DAY 第6話
 
 カーテンの隙間から差し込む細い光、窓際の隙間から吹いて来る
 柔らかな風・・・・ 感にさわる、目覚まし時計ではなく、自然に
 目が覚めた利雄は。
  「あ~!よく寝たな~!こんな気持ち良く目が覚めたのは
     何年ぶりだろう?」
 カーテンと窓を開け、タバコに火をつけ、縁側で、髪の毛を
 かきむしりながら 煙をくゆらす。
 ふと、気づくと後輩達の姿はない
  「あれ?あいつら・・・ まさか、置いてきぼりじゃないだろうな・・・」
 階段を降りていくと、奥の部屋から
  「先輩!やっと起きたんですね!早く朝飯、食って下さいよ!
    何度も起こしたのに、起きないから、先に食ってますよ」
  「おお・・ごめんごめん・・・」
  「じゃ、荷造りしてますから・・・・」
  「おお~い、待ってくれよ~!」
 先ほどまでのゆとりに満ちた時間は、いったい何だったのだろう・・・
 利雄は、出勤の時のように、バタバタと朝食を腹に入れ、
 荷造りを始めた、その滑稽な利雄の姿を女将が見て、クスクスと
 笑っていた。
  「女将さん!お世話になりました。ホント!良くしてもらいました。
   絶対!また来ますよ!」
   「はい!ありがとうございました!気をつけて!」
 利雄達、4台のバイクは、荷物をリヤシートにくくりつけ
 冷えたエンジンに火を入れ、旅館を後にした。
  1年中で、1番良い季節とはいえ、朝の風は、少し寒い。
 しかし、高揚した気持ちは、そんな風さえ、爽やかな旅の風に感じた。
 利雄達は、それからエメラルドグリーンの海沿いを走り、
 また、新緑のトンネルを抜け、非日常の空間を旅した。
 見た事もない景色の中を走っていたが、ほんの少しづつ
 日常の見慣れた景色へ変わっていった。
 高速道路のパーキングで休憩をしていた時に後輩の一人が
  「そろそろ、旅も終わりですね」
  「あ・・・ そうだな・・・」
  「利雄さん、どうでした?今回の旅?」
  「あ~!楽しかったよ!ホント、お前らに感謝してる!」
  「そりゃ、良かった~!」
  「昔話をしても何だが・・・ 若い頃は、ツーリングと言っても
 旅じゃなかったからな、あの頃は、2スト全盛期の頃で
 旅や景色を楽しむんじゃなく、とにかく、コーナーを
 攻めてたばかりだったもんな・・・・ そして年を取ったら
 バイクなんて、乗っちゃいけないと思ってたな・・・
 年を取ってからのバイクや旅が、こんなに楽しいなんて
 正直、驚いているよ・・・」
  「へ~!僕らは、この年になって始めたから、利雄さんみたいな
   感傷は分からないな~!で、これからどうするんですか?」
  「そうだな・・・ どうして良いか分からないけど、この気持ちは
   もう収まらないな・・・」
  「そりゃ~!ひとつ、クーデターでも起こしますか?」
  「バカ言え!・・・ でも、それくらいしないと結論は出ないかもな・・・」
 利雄達は、少し陽が傾き始めた黄色い太陽に向かって走り始めた。
 緑が少なくなり、その代わり、無機質なコンクリートのジャングルが目に
 付き始め、その中をただ、帰路につくだけのために走った。
 その道中、明日からの仕事の事、嫁さんの事、娘達の事を
 色々と思いながら走った、それは、紛れもない、ついさっきまでの
 空気と 違う、日常であった。

  翌日の朝、利雄は、いつもの満員電車にゆられ出勤していた。
  「また・・つまらない日々の始まりか・・・」
 と、つぶやくが、その口元には、ふと笑みがこぼれる
 まだ利雄は、マルチスクリーンに広がる抜けるような青空や
 透き通るような海の色の余韻が残っていた。
 
 利雄はいつになく働いた、どちらかと言えば、窓際に近い机であったが
 頭がスッキリとし、今まで貯まりに溜まっていた仕事を難なく
 こなしていく。
  「利雄さん、今日は、どうしたんですか?」
 と事務の女の子が冷かし半分で声をかけてくる
  「何がだい?」
  「だって、今日の利雄さん・・別人みたいにオーラを感じるんだもの・・
   何か良い事でも、あったんですか?」
  「ハハハハ・・・そうだな、ちょっとな!話しても分からない
   だろうけど・・」
  「へ?!何か分からないけど、今日は、ちょっとカッコ良く見えるわ!」
  「そ・・そうか?!」
 利雄は、今まで、しょぼくれて行く自分しか想像できなかったが、
 良い意味での野心を持つと人間、こんなに変わるのか・・と
 自分自信、驚いていた。
 
  ビルの谷間に陽が沈み、いつものように利雄は電車に揺られ
 帰路に着く
  「さて・・・ どう、すっかな・・・・」
 つい、この間まで、自分が、またバイクに乗るなんて考えも、
 しなかったが
 利雄の気持ちは、もう後戻りできない所まで、来ていた。
 電車を降り、暗い夜道を自宅の灯りを目指して歩いて行く。
  「俺・・・バイクに乗るわ!」なんて言ったら、あいつ・・・なんて言う
 だろうな・・・・
 利雄は、旅の余韻と現実の間で、一歩、践み出せないでいた。
 風呂に入り、食卓に尽き、ビールを飲みながら、何度か
  「俺・・・」と、喉まで出かかったが、言葉にならなかった。
  「あなた、どうしたの?」
  「え?」
  「何か、変よ・・」
  「い・・いや、別に・・・」
  「なら、良いけど・・・ 変な人」
 食事が終わり、利雄はベランダで煙草をくゆらしながら、あの旅館の
 事を思い出していた。
  「俺・・ 何か、子供みたいだな・・・ 思い切って踏み出すしかない
   のにな・・・・」
 
                     つづく