えらい愛想のよい象だわい
長い鼻を持ち上げて
と思ったら
私の背後を通りかかった飼育員さんに
挨拶しているらしい
小象のころからここであの人に育てられたらしい
あの長いまつげの瞳でウインクかね
あれだけの図体の愛情の重さは
どのくらいですか
この限られた檻の中で
ほんとは
悲しくてやりきれないのだろうけど
それでもなお精一杯の愛情の証として
動物園の敷地いっぱいに咆哮する
秋空に浮かぶ雲もちぎれそうになるほどにね
田植えも終わって一面が緑
緑萌える季節四月二十日に生まれたから
萌という名前をつけたのだが
可憐な花には程遠く
我が子ながらお世辞にも可愛い女児ではなかったが
それでも名前の通りすくすくと
人並みの容姿には成長してくれたようで
いつのまにやら好いてくれる男もできて
めでたく青葉茂って夫婦になるそうな
五月の社は新緑の匂いでいっぱいで
五月の花嫁は白無垢で神前にご報告
命繋げる夫婦になると
「祓え給い、清め給え、神ながら守り給い、幸え給え」
種落ちて 芽生え 花咲かせ 葉茂り 実結ぶ
種落ちて 芽生え 花咲かせ 葉茂り 実結ぶ
くりかえし くりかえしては 何万年も
産めよ 増やせよ と
白無垢姿に不覚にも涙目になってしまったが
結局カッコイイ父親にはなれずじまいでしたが
願っています
夫婦でカッコイイ家庭を築くことを
そして二人の命繋げる初着姿の子宝を
青葉の下で抱きたいものだとね
ツガイなって三十年
二匹のヒナも独り立ちして
おまけに孫ヒナまでよちよち歩きを始めて
なんとかツガイの役目を果たした感もしないでもないが
悠々自適の生活には程遠く
まだまだツガイで汗水たらして餌を確保せねばならない
それにしても夫婦というもの幾つ歳を重ねても謎ばかり
一夫一婦制が絶対良いとは露ほども思わぬが
そこは甲斐性の問題で
私などは一匹のメスに精一杯
夢の中に登場することさえ皆無に等しい
空気のような存在の相方だが
以心伝心とまではいかないまでも
お互い考えていることは なんとはなしにわかるほどの
異体同心の趣がないでもない
鼻糞をほじくりたくなった時など
そっとティッシュペーパーが差し出される
傷つけあうより傷を舐めあう関係になってきた
食卓の上にはいつものお皿と茶碗があって
萎びた大根と萎びた揚げ豆腐がちょっぴりと
それでもじっくりと煮込んだ味わいでね
染み込んだ熟成を
お茶漬けでサラサラといただく
見慣れた風景、代わり映えしない日常生活も
たまにファインダーを通してみると新鮮である
と、ここまで書いたところで
傍らからツガイの相方は
「自己満足の駄文は出来たかな?」
などと茶々を入れに来るのだ
