秋雲秋雲は人の記憶を吸い込んで膨らんでは 形を変へちぎれながら流れていくちぎれ雲は 記憶をあちらへ こちらへと吐き出しながらいつのまにか群青の空に溶け込んでいく朝陽に命をいただき現れて夕陽に命を返して消えていく人は生まれた季節と真逆の季節に息を引き取るらしい春に齢九十になる三月生まれの母の病室の窓に秋九月のちぎれ雲が流れていくそのうち一面に彼岸花も咲き乱れることだろう