濱島語録 研究の心得(1)濱島教授の研究指導の基本 | FF残日録のブログ

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広島県出身。各地で皮膚科の医療に関係してきました。2017年から,高槻の病院に勤めてます。過去の文書や今の心のうちを,終活兼ねて記して行こうと思ってます。2023/1/8に、dermadreamからFF残日録のブログに名称変更。

私が1980年前後に指導を受けた病理学教授濱島義博先生の研究心得をワードに書き換えたので、4回に分けてアップします。1)濱島教授の研究指導の基本(1−11) 2)原著論文 書き方の要領 3)1)濱島教授の研究指導の基本(12−20)、4)病理学教室第二講座 ルール 

 

 

京大病理第二講座

 

研 究 心 得

 

 

                教授 濱 島 義 博

 

“偉大な教室とは偉大な人物を多く産み出す教室である”

 

目 的:

ヒト疾患の原因を発見し、その適確なる治療法を自らの手で開拓し人類に貢献することを以て目的とする。

その目標は世界の研究者になることであり、ノーベル賞を狙うことである。

  これは一口に云えば た易いことではあるが これを実行するということになると実に大変なことではある。しかし、われわれプロの道では困難と苦労の中に自らを投げこまなくしては成り立たない。また一切の泣き言は許されない。また要は実行と卓越した技術のみであって、これからはわれわれの世界ではもう口先だけの理論は全く通用しない。自分自ら創り出したデータを先づ示してからでなくしては物を云ってはいけない。ただ他のプロ連中から笑われるだけである。

  それだけにプロの道へのトレイニングほど厳しいものはない。

  勿論独創的な成果を示すことを何より第一とするが,本目的であるヒトの疾患の治療に結びつく基礎的研究を実施するためには、何といっても先づ人体の病理学を熟知していなければ話にならない。これが入門の第一歩である。従って率先して病理解剖を行い、これを学び毎週水曜日早朝よりある「剖検整理会」には全員出席しなければならない。

以下の心得の守れない人は いま直ちに止めるか、もしくは破門されるであろう。

 

 濱島教授の研究指導の基本は

(1) 有能なる青年科学者を最大限に進歩発展するように指導すること。 従って以下の厳格なルールもすべて各自の研究が最もうまく進むよう取り計ったものである。

(2)研究の自由はもっとも尊重されねばならない。しかしその自由の代償としてそれに対する責任はすべて自分が取らなくてはならない。これが自由の原則である。この教室では免疫病理学の研究をすることが 指導者が多く居るし研究費などの関係で得策であろう。

(3)研究室では相互の和,チームワークがもっとも大切であるし、また絶対必要な場合が多い。皆が満足出来る楽しい研究室を皆の努力で作りましよう。一切のエゴは許されない。

(4) 研究人生で最も大切な年令は 26才から34才まで。この期間にノーベル賞を目標とした猛烈な研究をやって人生生き甲斐のある青春を送って欲しい。それだけに自分自身で選んで来たこの病理教室での研究は 自分の命をかけて励み、自ら自分自身の選んだ道を裏切らないよう努めるべきでる。

人生自分の選んだ道にすぺてをかけて純粋に打込むことが出来るとは、これ程幸福なことはないであろう。

(5)研究室で最も大切なことは、どんな簡単なことでも実際にやってみて、いかに自分は不器用であるか、何事も実際にやってみると非常に難しいものであるということを思い知ることである。そして 何よりも先づ卓越した技術を身につけるべく努力すべきである。これからの諸君のプロ人生は技術が一番大切である。

(6) 研究というものは日進月歩の成果を挙げていくものである。それには一つ一つの実験をベストコンデイションで行うことが必要であり、一切の無駄のない効率のよい、 そしてまたやり直したらよいというような甘い考えを捨ててやること。

(7) 自己の研究成果は他人によって認められるものであって自分自らで認めるものではない。自分自身は、得たデータを正直に示すだけでよい。しかし他人というものは悪口こそ云え、なかなか認めようとはしないものである。それを認めさせようというのであるから、そこにプロの厳しさがある。

われわれ病理学者の研究は、形態学であるために形態という非常に説得力の強いものを示すことによって他人に承認されるという性質のものであるだけに、諸君は世界最高の素晴しい写真を取る必要がある。そこで初めて人は認めて呉れるものである。

(8)従ってその顕微鏡写真は一枚一枚真心をこめてとること。これまでの研究の苦労の最終の総まとめがその写真であるし、また最高の写真を取るためにはそこに到るすべてのテクニックが最高でなければならない(「免疫組織学」第3版序参照 ) 。

(9)濱島研究室で研究を共にした者は、必ず世界の桧舞台で大活躍しなければならない。またそれは先方から招待されて行くのが常識である。そしてその招待されるためには自己の英文原著論文の内容が認められなければ誰も招いては呉れないものである。これが後述する英文原著論文を書けと強調される所以である。

(10)本研究室では「一人前」の定義を次のようにしている。

外国の研究室に招待され、すぐれた研究を行い得たとき半人前として扱う。本人がそのすぐれた成果と経験、実力をもって帰国し、わが国の悪い状件下で自分の努力によって自己の業績が飛躍的に進展したと多くの人から認められた時、はじめて一人前として扱う。

(11)各自がそれぞれの立場で研究業績を挙げるのでなくしては医学研究の進歩はない。そしてその研究業績とは原著論文、印刷として永久に残された論文を以てその基準とし、学会などの口答発表などは一切これを業績として認めるわけにはいかない。

大学院、助手は一年間に2つ以上の英文の原著論文を教授の許に提出しなければならない。発表者は直接研究に携った者のみにして、たとえ教授であってもその研究を直接に行っていない場合にはその名前を列記することは許されない。

論文を書かない者は研究者としての義務を怠ったものとして破門されるであろう。論文一つ書けない者は以後の一切の発言が認められなくなるだろう。