How to fly・50 | 黒チョコの嵐さんと大宮さん妄想書庫

黒チョコの嵐さんと大宮さん妄想書庫

嵐さんが好きです。二宮さんが好きです。大宮さんが好きです。

こちらは妄想書庫でございます。大変な腐りようです。足を踏み入れる方は、お気をつけくださいませ。

※BL妄想書庫です


苦手な方はお気を付けください





















最後の一枚が完成した

それを祝うように梅雨が明ける

この季節は嬉しい思い出とやるせない思い出が交互に甦る



「一年かぁ…あ、ここの掃除終わったよね?」



よく晴れた土曜の午後

開店作業の合間をぬって、額に入れた絵を吊るす



「よし」



少し離れて、全体を見る

カウンターと対面する壁に、かつてこの店のステージを彩っていたポールダンサーが居る



「うん、やっぱり描かなくて正解だったな」



全ての絵には瞳が描かれていない

挑戦的で、少し寂しげで、必死にここで生きようとしていた彼を表現したかったが、今の俺の技術では到底無理だった

が、彼の華麗な躍動はしっかりと伝わる仕上がりになったと思う



調理場の仕度を終えたらしいマスターが煙草に火をつけた



「どうよ」



壁を見せる



「まぁまぁだな」



目を細めて、懐かしそうな顔をした


とりあえず及第点というところか



「これで完成、だな」

「はい、ご苦労様でした」



壁に掛けられた絵は全部で二十三枚

一月に二枚のペースで仕上げたことになる

始めのうちは全くOKが貰えなかったことを考えると、よくぞここまで描ききったな、と思う



「ふぅー…これで無事、賠償出来たってことか」


「それは微妙なとこだなぁ」

「は?微妙?なんで?全部あんたの指図通りやっただろ」



完成と言っても、全てに満足しているわけではない

正直に言えば書き直したい部分もある

しかし今はこれがベスト、これ以上を求められても応えられない



「言い忘れてただけど、新しいパフォーマー見付かったから」

「…え?」

「そいつのステージと合わなかったら即全撤去ね」

「はぁ?!」



散々描かせた挙げ句、最後の絵が完成した直後に全撤去を匂わせる

いや、これは正確な言葉ではない

新しいパフォーマーが過去のステージで埋め尽くされたこの壁を快く思うはずもない

高い確率で全撤去

なるほど、これは賠償請求という名の報復だったのか



「壮大な嫌がらせだな…」



しかし、彼を失った代償と比べたらまだまだ足りない、それが分かっているから、無茶苦茶な要求にも応えてきた



「新しいステージは週明けにお披露目だから」

「お気に召さなかったら勝手に外せよ」

「外すのもあんたの仕事だよ?」

「なんでだよ!お前マジで性格悪いなっ!」

「どうもありがとう」

「くっ…むかつくっ」



こいつに何を言っても無駄だ

それはこの一年で嫌というほど身に染みている



「あー…来週だっけ?」

「そうだね」



今はとりあえず寝よう

仕上げに集中して徹夜が続いていたから、そろそろ限界だ



「会社の同僚が絵を見たいとか言ってたから外す前に連れて来るよ」

「ご来店、心よりお待ち申し上げます」

「じゃーな」



様々なプレッシャーで生きた心地がしなかったこの一年は、彼を描く為に、彼を想い続けた一年でもあった



「今も、飛んでるか?」



空に聞く

今日もどこかで、華麗に、軽やかに、思い切り飛んでいて欲しい






「これが噂のトーゲンキョー!」



週明けの仕事終わり、同僚を誘って店に行った



「デートのお相手が働いてた場所なんすよね?あっ あれですか?壁に掛けてある絵って全部先輩が描いたんすよね?」

「うん」

「おぉ、すげぇー、ちょっと近くで見てきますっ」



ソファ席の客に断りを入れ、壁の絵を一枚一枚丹念に見始めた

むおぉ、とか、きわどいっ、とか、独特な感嘆詞が聞こえてくる



「いらっしゃいませ」

「いつもの」

「もうすぐ始まりますよ」



仮面を装着しているマスターに言われて、ステージに目を向ける

ポールは撤去されていない

今夜から勤めるパフォーマーもポールダンサーなのかもしれない



「どんな奴だとしても…」



きっと比べてしまう

そして、鮮やかに甦らせるだろう

面影を追っても彼には追い付けないのに

どこかで区切りをつけて全てを過去にしてしまえたら、どんなに楽だろう

















つづく