※BL妄想書庫です
苦手な方はお気を付けください
「つーか先輩、デートの相手とはどうなりました?お付き合い順調っすか?彼女さんにお友達紹介してもらえますかね?」
「紹介は無理だな」
先の話を知り合いとしたが、飛びたいと言っていた奴と、俺がデートを望んでいる奴
二人を同一人物だとは思わないらしい
そういえばCAではなく、パイロットと言っていた、そして付き合う相手は彼女
あっちは男、こっちは女
それが普通
「あらら、別れちゃいましたか」
「違う、まだ恋人にもなれてねー」
「へ?まだそこ?あれから随分経ってません?」
「時間掛けることが苦にならない相手だから」
「ハイスペックな美女なんすねー」
「確かに美人だな」
「ちなみに…ボインのほうは?そっちもすごいっすか?」
「ぺちゃんこ」
「マジか!」
同僚は今どき珍しいくらいに素直だ
デートの相手は男だと言って訂正しても「へー、そうなんすか~」で済ますかもしれない
背が高く、誰にでも優しく、常に爽やかで
「先輩…微乳フェチだったんすね、さすが、深いっす!」
おおらかにエロいところもモテそうだ
「あっちーなー」
「もう梅雨明けですもんねー」
「よし、行くか」
「ですねー、お仕事がんばりましょー」
二本の空き缶をゴミ箱に捨てて、照り返しの強い歩道を並んで進む
日常生活の中に身を投じると、店と、そして彼が、非現実的な存在に思えることがある
こうして太陽の下にいる時は特に
あの地下が実際の距離よりも遠く離れた場所にあるように思える
意味のない焦燥感
ここで胸が焦げても、彼には届かない
いつものように予約をし、いつものように彼を待ち、テーブルにグラスを並べる
「子供の頃の夢ってなんだった?」
「昔のことは忘れました」
何気ない会話をしていたが、これは地雷だとすぐに察する
表情は変わらないが、空気が重い
「職場でそんな話になってさ、俺はイラストレーターだったなーなんて思い出したから」
「ふぅ~ん」
子供の頃が地雷なのか、夢が地雷なのか
確かめてみたいけど、今夜はまだ笑顔を見ていない
深追いは止めて、話題を変える
「昨日も残業でさ、だからここにも来れなかったんだけど、友達と飯の約束してても毎回ドタキャン、友達どんどん減る」
「へぇ~」
「お前は?働いてる時間が特殊だし、外に出ないと友達減らない?」
「そんなのいない」
空気が重さを増す
これも地雷?
「そしたら俺とは?すでに友達みたいなもんだし、記念すべき一人目に立候補してもいい?」
「それはセフレのお誘いですか」
「違う、普通の」
「普通ってなんだよ、サラリーマンでも頭悪そうな言葉使ってんだなー、がっかりするわ」
深追いするな
そこら辺で止めておけ
「特別ならいいんだな?」
「だから、いらないってば」
頭のどこかで警戒音が鳴っている
これ以上は踏み込まないほうがいい
「なんで?」
「なんでー?ばかなのー?いらねーもんはいらねーんだよ」
「理由が知りたい」
「うるせーなー、もうやる?やれば黙る?やってさっさと帰れよ、やらずに今すぐ帰るんでも全然いーけど」
重い空気は闇へと変わっていく
明日は定休日
疲労はピーク
酒に強くない彼は一定量以上飲むと感情のコントロールが甘くなる
「友達がダメなら恋人」
「…は?」
「恋人に立候補する」
意図的にその隙をついた訳ではない
壁があることは知っていたし、触れてはいけない領域があることも分かっていた
以前不用意に傷付けたことを反省し、その為の安全装置は働いていた
が、無視をした
なぜここまで進もうとしたか
それは、様々な要素が重なってしまったからだろう
俺の日常、普通の同僚、男女の当たり前、ここを遠く感じた、お前を遠く感じた、思わぬ場所で胸が焦げた、友達にはなれない、いらないと言われた
知らぬ間に、俺のコントロールも甘くなっていたのかもしれない
闇夜だろうと突き進んでしまいたいくらいに
事情はある
そんなものは誰にでもある
察しているだけでは前へ進めない
伝えよう
今、伝えたい
「好きだ」
つづく