toraware・部長's episode | 黒チョコの嵐さんと大宮さん妄想書庫

黒チョコの嵐さんと大宮さん妄想書庫

嵐さんが好きです。二宮さんが好きです。大宮さんが好きです。

こちらは妄想書庫でございます。大変な腐りようです。足を踏み入れる方は、お気をつけくださいませ。

※BL妄想日記です


苦手な方はお気を付けください。



こちらのお話は『toraware』番外編です。





















「ん~、いい天気だなぁ…」



ビルの屋上は夏の気持ちいい風が吹いていた




春の人事異動で部長へ昇進してから数ヶ月


俺は、今まで通り与えられた仕事を責任を持ってやるだけだと


気負いはなかったけど

異例の若さだ、スピード出世だと周りは勝手に騒いで

今まで対等に接してきた同僚達が俺をさん付けで呼び始めた



そして、見知らぬ人まで俺に頭を下げては

俺の意見にハイハイと返事をするようになった



仕事を辛いと思ったことはないけど

今の場所は



…少し息が詰まる





「逃げたいなぁ」



人前では決して言えないことを呟いて

この昼休みの間だけ、ここで自分に戻るのが


最近の日課になってしまった





今日も気持ちいい陽射しを求めて屋上庭園に来ていた



ベンチに横になってウトウトしていると

「気分悪いの?」

急に声を掛けられた



「…はい?」

目を開けると

俺が横になっていたベンチの反対側に男が座っていたようで

陽射しを背負って俺を覗き込み

「あんた、顔色よくないよ

ツライなら水でも持ってこようか?」

ベンチの背もたれに肘を掛けながら言った



…見ない顔だな



「いえ、大丈夫です」


男は「ならいいけど」と微笑むと

手元に持っていた機械でゲームを始めたようだった



会社でこうやって、俺に気を遣わないで接してくれる人は


久しぶりに会ったな…



「……大丈夫……ずっとここにい~るよ~

……さら~けだ~してみ~て…

……そ~れ~が~ぼ~くらだ~…」



男はゲームをしながら何かの歌を口ずさんでいるようで

時折、優しい歌声が風に乗って聴こえてきた



俺はそれを子守唄代わりに

また瞼を閉じた





ピリピリピリ  ピリピリピリ


携帯の着信音で目を覚ますと

いつもよりも疲れが取れているように感じた



「はい、大野です、…うん、…うん、すぐ行く」

電話を切って、足を乗せていたベンチにふと目を向けると

冷たい水が置かれていた


「これは…」

すぐ周りを見渡してみたけど、もう彼の姿はなかった



どこの部署の人だろう…



俺はそのペットボトルを持って、仕事に戻った




それから数日、俺は昼休みになるといつものようにビルの屋上へと行った

だけど、あの彼と再び会うことはなかった















コンコン



部長室で仕事をしていると


「部長?」


主任の翔くんが入ってきた



「ん?どうしたの?」


「新しく配属された奴がいるんで、連れて来ました

今いいっすか?」



そう言えば…そんなこと言ってたな



「いいよ~

翔くんの後輩だっけ?」

「そうなんすよ~

だいぶ生意気な奴ですけど」

「だいぶ可愛いの間違いじゃないの?翔ちゃん」

「お前、会社じゃ主任って呼べって!」



翔くんと軽やかに笑いあいながら入ってきたのは

…あの時の彼だった



「始めまして

本日よりお世話になります、二宮と申します

よろしくお願い致します」



始めまして…?



あ…俺のこと…覚えてない、か




「部長?」

翔くんに呼ばれて

ハッと我に返った


「あぁごめん、部長の大野です、よろしく…」



「あははっ部長サン若いねっ」

屈託なく笑う彼が、眩しく見えた



「お前ふざけんなって!

結構偉い人なんだぞ?」

「だって部長サンって言ったらさ?

その…ハゲちゃってるオジサンかなって思ってたから」



彼が笑うと、空気が軽くなる


…そう錯覚するほど、軽やかで、柔らかい雰囲気を感じた



「すみません、こんな奴ですけど

当分の間は俺が面倒見ますんで」

「…うん、頼むね」

「じゃ、お忙しいところ失礼しました」

「失礼します」

ペコリと頭を下げて


また翔くんと笑顔を交わしながら


彼は、出て行った















つづく