ご飯が作れません。
ちゃんと言うと、
作れなくなりました。
もっとちゃんと言うと、
作ってません。
料理、しません。
夫とはまるで食の趣味が合わない。
これはけっこう結婚生活を送る上で
致命的な不一致だと思うけど
私は我慢することにした。
好きじゃない和食を用意して
夫の帰りを待った。
「毎日味噌汁が飲みたい」
夫の要望に従って
大好きなイタリアンは
トマト嫌いな夫の手前封印した。
心身の不安定な私にとって
キッチンに立つことは
一日に一度が精いっぱい。
毎日毎日日が落ちる頃
心を無にして料理した。
昨年秋、夫が仕事で昇格した。
もちろんいっしょになって喜んだ。
それから夫の仕事はいっそう
忙しくなり、帰りも遅く
帰宅後のご飯も険しい顔のまま
無言で食べるようになった。
今まではおいしいおいしいといって
決まっておかわりをしていたのが
私の作ったおかずを残して
ポテチやおつまみを口にするようになった。
味の感想はおろか
いただきますもごちそうさまも言わない。
余ったおかずを見るたびに
虚しさが込み上げた。
そんな日々が続いて
料理の際に
私の体が拒否しはじめた。
モヤモヤ、グラグラと
心がどよめいて
食材や調理器具を見ると
手が止まる。
思考がフリーズして調理が進まない。
それでも無理をして
なんとか続けていたら
気づいたらスーパーの食品コーナーを
目にするだけで
息苦しくなってしまった。
ついには「食」について
考えようとすると
苦しくてたまらない。
「料理恐怖症」とでも言うんだろうか…
私はあきらめて
夫に状況を説明して
しばらく料理は作れないことを
承諾してもらった。
「頑張らなきゃ」
小さい頃から
父親の厳しい顔とともに
体に刻み込まれた呪文。
唱えるのを止めたら
全てが崩れて壊れそうで
こわくてしかたなかった。
でも、この体が限界の悲鳴をあげた。
「頑張らないことを頑張る。」
今年はこの挑戦から始まった。
罪悪感や無力感におそわれながら
怖れを尻目に
日々はおだやかに過ぎていることに
冬の終わり、気がついた。
頑張らなくても
日常はやさしくおとずれ過ぎていく–
非力な女の子なのに
無理して勇敢な騎士になろうと
してたんです。
でも、訓練も受けずに力がないから
何度馬に乗っても打ち倒されてしまう。
そもそも飼いならしてもいない馬だから
振り落とされてしまう。
「あなたは主ではないし、
この戦場はあなたの土俵じゃないですよ」って。
だから–
私はこの家の
お姫様になる覚悟を
決めました。
考えてみれば
結婚に至ったのも
当時の職場の陰険な上司から逃げるため
毒親の実家から離れるため
夫は私のすべてを受け止めて
連れ出して導いてくれた。
新居も家具も結婚式も費用は
すべて夫側が工面してくれて
私は一銭も出していない。
(もとい、一文無し)
夫という王子様に手を引かれ
ジルの最っ高に可愛いウェディングドレスと
真っ赤なお花いっぱいのカラードレスを着て
お披露目をしたあの最高の日
私は姫君として
あたたかくこの家に迎えられたんだった。
だから私は姫らしく
か弱いまま
ただいるだけで
愛され守られている
料理はしないけれど
掃除 洗濯
ペットのうさぎのお世話
他の家事は
ぼちぼちできるお姫様。
偉いでしょ?笑
ご飯は夫が仕事終わりに
買って帰ってくれる。
コンビニやスーパー
便利な世の中で
なんとかなっている。
食事の時間は遅くなるけど
私たちは笑って話してご飯を食べる。
大丈夫なんだ。
花のようにありのまま
色めいて時々気丈に振る舞って
咲くように自然に笑って泣いて
可憐に道を彩るように
夫のそばにいようと思います。
それが今の私の
最大限の力だから。

