生まれて気がついたら絵を描いてた。
絵は私の一部。
小学2年生、かぜをひいた日
母が「りぼん」を買ってくれた。
読めない文字もあったろうけど
本の中で流れるように
くるくると変わっていく絵と空気の世界に
夢中になって、毎月買うようになった。
真似事をして、
シャープペンとものさしで
漫画ノートを描くようになった。
絵が好きな友だちといっしょに
何ページか進めて交換する
交換日記ならぬ「交換マンガ」なんかもした。
漫画家が夢になった。
中学生になって初めて
美術の授業で描いた読書感想画。
『注文の多いレストラン』。
仲良くなったばかりの「彼」が
すげえ
上手え って
驚いていて誇らしかった
想い出の一枚。
美術の授業や課題で
表彰状をたくさんもらうようになった。
白黒の漫画より、
一枚にどれだけの画材、色、表現できるか、が
おもしろくなっていった。
夢はイラストレーターになった。
中学二年の夏休み
部活のない時に
家でたくさんの絵を描いた。
何枚もの四つ切画用紙に
丁寧に色を重ねて仕上げてみたり
大胆に筆を振ってかすれた風合いにしてみたり
無限の自由のなか表現の可能性で遊んでみた。
重ねた作品たちをくるくると
ひとつの筒にして
夏休み明け、始業式、
帰りの会が終わってすぐに
美術の先生に見てもらいに
その教室にいった。
担任になった、
彼のいるクラス。
その時彼はいなかった。
もう帰ったのだろうか―
ほんの少し肩をすかして
先生と友だちに囲まれて
丸まった画用紙たちが無造作に広がった。
すごいね
こういうのも描くんだね
大好きな美術の先生に
ほめられるのが嬉しい。
そのために描いたようなものだった。
その中の一枚を
先生は特別に称賛して気に入ってくれた。
「これ貼っとこうよ!」
妖精のような、青い目をしたファンシーな女の子が
丹精に色づけした枝葉を背景に
オレンジをかじりながらこっちを向いている
特にテーマもなく
思いつくままに でも心を込めて
一番達成感があった一枚。
先生の突然の提案で
絵は赤と黄色のまるいマグネットで
その教室の黒板に掲げられた。
私のクラスじゃないのに。
照れと困惑を越えて
まんざらでもなかった。
絵はしばらくその黒板に張っておくことにして、
私は友だちと新しい学年の教室めぐりに出かけた。
先生も職員室に戻った。
しばらく歩いて
その教室の前の廊下を通りすがった時
誰だか男子がひとり
その目の前に立って
私の絵を見上げていた。
彼だった。
他の誰と何を言うでもない
まっすぐに向かい立ち
じっと絵を見つめていた。
表情は見えない。
身動きせず向かい合う姿に
なぜだか私の足はすくんだ。
なんの言葉も出せなかった。
勇気が必要になったことにも
気づけてさえいなかった。
ひとつ息をのんで
ふいに目をそらして
友だちについて立ち去った。
あの絵に何を見ていたの?
何を思っていたの?
今となってはわからない。
くたびれはじめた制服の
その華奢な背中が
真夏を過ぎてゆらめく光に照らされて
私の目にじりりと焼き付いた。
描いた意味が変わった。
その光景を、私は忘れない。

