街は小雪で散っていた。
車が行き交う大通りに面した細い脇道を入ると、地で足を踏ん張って天に吸い付かれているような、古く錆びついたトタン外壁の佇まいがそこにあった。
建物の扉には小さく『カートランド探偵事務所』と書かれている。
そこにトレンチコートに包まれた一人の女性がやってきた。
扉の前で頭を数回横に降り、扉に書かれた文字を見ると、確信したかのように中に入っていった。
二階へ上がる階段の先にはもう一つ扉があり、開けると回転椅子に座りコーヒーを嗜んでいる男がいた。
「ようこそ、カートランド探偵事務所へ」
男はコーヒーを整頓された机に置き、スッと立ち上がり女性を出迎えた。
「外は寒かったでしょう、まぁまぁ座ってください。なにか温かいお飲み物を出しましょう。コーヒーにします?紅茶にします?」
「いいえ、結構です。」
女性は外気の冷たさに似た態度で男の気遣いを断り、持っていたハンドバッグを横に置き、トレンチコートを着たまま木製の肘付き椅子に座った。
「それでご用件は?殺人の捜査?強盗の計画でも練ればいいのかな?」
と、冗談めかして女性に訊ねた。
「夫の浮気調査」
女性は言葉少なに短くわかりやすく用件を伝えた。
「なるほど。では旦那さんの情報をなるべく事細かく教えていただけますでしょうか。」
女性はバッグから青いカバーのファイルを取り出し男に渡した。
「用意周到ですね。」
男はざっと一通りファイルを流し読みし、それを机のコーヒーカップの隣に置いた。
「貴女の御名前は?」
「ポーラ・ジェイムズよ」
男は背広の内ポケットに手を入れると名刺入れを取り出し、その中の一枚を女性の前に差し出した。

『ジョシュ・カートランド探偵事務所
あなたの探し物はなんですか
電話番号 ××××』