角砂糖は3つと決まっている。
決して苦いのが不得意な訳ではない。
それはただの習慣のようなものだった。
子どもから大人になるのはいつなのか。
コーヒーに砂糖を入れなくなった日、ブラックで飲むようになった日。
彼は変化を嫌った。
「マスター」
カウンターの向こうには、綺麗に横一列に伏せてあるグラスが並んだ、埃の被った食器棚がある。
左手には点滴の雫がポタポタと落ちるように音を立てるコーヒーメイカーが置いてある。
カウンターの端からブーツと床板のタップな音色をたてて、白髭を蓄え白いワイシャツ姿の老人がやってきた。
「たまには他のものも頼んだらどうだ」
やれやれと言わんばかりの顔で言った。
「同じ時間に起きて同じ飯を食わないとどうも調子が出なくてね」
彼はそう言うと、いつもと同じ値段の小銭をカウンターの上に置いた。
「毎度」
彼はキシキシ鳴る床を、その音を楽しんでいるかのように奏で出口に向け歩いた。
ドアの目前で振り返り、
「じゃあまた明日」
無表情とも微笑ともとれる表情で言った。
扉についた鈴がカランとぶつかり合って、背中を丸めながら男は出て行った。