物語とスケート:「トゥーランドット」考 | 台東区入谷・浅草のピアノ教室《高島ピアノ塾》とピアニスト高島登美枝のブログ

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歴史と文化の地・台東区(浅草 入谷 上野)の《高島ピアノ塾》。
主宰者は早稲田大学出身の異色のピアニスト。
伴奏業の傍ら、東京藝大大学院で博士学位を取得。
20代から「音楽による経済的自立と社会貢献」を実践し
逆境から夢を叶えた音楽起業家人生のストーリー。

浅草 入谷 台東区のピアノ教室

《高島ピアノ塾》主宰、

バレエピアニスト・バレエ音楽研究者、

コレペティトゥア兼歌曲伴奏者の

高島登美枝です。 

本日もご来訪ありがとうございます。

 

平昌オリンピック、始まりましたねオリンピック

がんばれニッポン日本代表

テレビの前から動けず、

練習も仕事もはかどらない毎日ですが、

本日はフィギュアの選曲のお話。

 

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もう12年になるのかと、感慨深いですが…

トリノでの荒川静香選手の金メダルの演技金メダル

 

朝4時とか5時とか、やたら早朝だったので、

中継を見るのはやめようかとも迷いましたが、

根性で起きてリアルタイム観戦しました。

がんばって観てよかった~ばんざい

 

 

あの時は、

メダル候補と言われた選手たちが

気負って自爆する中、

冷静にやるべきことを

きっちりこなした荒川選手が、

見事に金メダル。を獲得しました。

 

「うまいな~」と感心したのが、

(演技は当然ですが)

選曲とプログラムと振付。

特に注目は、

イナバウアーで彼女の代名詞となった

フリーのプログラム「トゥーランドット」です。

 

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確か、オリンピック代表選考を兼ねた

全日本選手権では、

別のプログラムを滑っていたのに、

直前になってこれに変更。

 

もともと
世界女王に輝いたときの

プログラムだったそうですが、

その報道を聞いた時、

この人、頭いいな〜びっくりと思いました。
 

だって…

・開催地はイタリア矢印プッチーニは自国の作曲家

・荒川選手は東洋人矢印(想像の)中国が舞台

・荒川選手はクールビューティ矢印トゥーランドット姫のキャラ

・氷のスポーツ矢印姫はオペラの中で「氷のよう」と形容

 ※有名なリューのアリア〈氷のような姫の心も〉

・最も有名なアリア矢印勝利を確信するカラフの独白

 

オペラに詳しくない我々日本人には

ピンと来ないかもしれませんが、

イタリア人にとっては

「荒川静香+トゥーランドット」で、

瞬時にこれだけの連想が働くのです。

 

おかげで、試合前から

現地新聞の下馬評はうなぎ上りアップ

もともとイタリアは、

ソフィア・ローレンとか

シルヴァ―ナ・マンガーノとか

大人っぽい美女が大好きなお国柄。

ですから、

このプログラム変更は、

現地の人のハートを掴むための

計算され尽くした頭脳プレーだったと言えましょう。

 

逆に、本国・日本では

安藤美姫選手の4回転への期待が大で、

荒川選手はノーマーク。

特派員情報から

「荒川選手ってヨーロッパで人気なのね」

と知るような状態でした。

むしろ

「こんなに直前にプログラム変更して、

大丈夫なの!?

という雰囲気さえ漂っていました。

 

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「もしかすると、

荒川選手はいいところまでいくかも恋の矢

と私が思ったのは開会式中継の時。

 

聖火点火後、おしまいのほうに

パヴァロッティが登場して

「Vi-nce--rò-------!!

(カラフのアリア〈誰も寝てはならぬ〉の

クライマックスの最高音のロングトーン部分。

「自分はこれから勝つ」という意味の箇所)

と歌ったのを聴いた時は、

これも何かのシンクロニシティというか、

運の潮目が荒川選手の方に向いているな、

と感じました。

(趣味の範囲ですが、一応これでも

術歴40年の占術研究家なのであせる

 

後に、荒川選手自身も、

「開会式のパヴァロッティの歌で

勝利を予感した」

という旨のことをおっしゃっていましたね。

 

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さて、本番。

実況中継なので、
会場の雰囲気もリアルに伝わってきます。

 

荒川選手を迎えた会場の空気は、

安藤選手の4回転への期待とか

イタリア代表のコストナー選手への声援とは

また一味違っていて、

スケートの試合でありながらも、

オペラの幕開きを待つような雰囲気だったと

記憶しています。

 

彼女もそれを裏切りませんでした。

まず、衣裳。

お母さまの手作りだという話でしたが…

・水色と紺色という寒色矢印クールビューティ

・カシュクール襟と帯風のサッシュ矢印東洋風

 

さらに、曲の構成と振付のうまさ。

彼女の曲構成は、

あの長大なオペラから

3か所だけを抜萃したものでした。

振付は実によく音楽の構成と合っていて、

感心させられました。

 

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第1の部分↓

 

オペラ冒頭の強烈な和音の総奏で導入です。

(他のスケーターもよく使いますね)

初手からドラマティック、衝撃的な印象を与えて

観客を一気に引き込む効果をあげています。

 

振付では、ここで、

トリプルルッツを飛んでいます。

 

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第二の部分↓

 

第1幕の最初のほうに登場する

叙情的で感傷的、哀切なメロディです。

敗戦国の王族として

命からがら逃げてきた王子カラフが、

同じく国を追われた

父王ティムール&召使のリューと

北京の街角で再会する場面の音楽。

 

このメロディは、

fis-moll(嬰へ短調)で登場した後、

g-moll(ト短調)で反復されるのですが、

荒川選手は、g-mollの方を使用しています。

おかげで、

次の〈誰も寝てはならぬ〉(G-dur)とのつなぎが

とても自然に運んでいます。

 

振付的には、この部分がプログラム前半。

三回転の連続ジャンプや単独ジャンプ、

スピンなどを入れていました。

 

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第3の部分↓

ここからがプログラム後半になります。

 

【A部分】

 

【B部分】

 

開会式でパヴァロッティが歌った

カラフのアリア〈誰も寝てはならぬ〉です。

このアリア、おそらく

イタリア人なら誰でも知っている曲です。

 

原曲の構造はシンプルで

A部分+B部分(サビ)から成る1番を

もう1回繰り返すという構造、

つまりA+B+A+Bですが、

荒川選手の曲の構成は、

A+B+A+B+B。

サビをもう一回繰り返しています。

 

A部分はとても静かで抑制的。

伴奏はずーっと
「G9」と「E♭M7+6」の和音を反復するだけ。
歌のメロディラインも、
cantabileな要素より、
しゃべり(それもつぶやき)に近い感じです。

 

これに対して、B(サビ)部分は

とてもメロディアスで、

和音も多彩に変化して、

盛り上がりを

どんどん予感させる音楽になっています。

 

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荒川選手の音楽構成のうまいところは、

静かな第2部分の後に続く

同じく静かなA部分を

短く切り上げていること。

(楽譜の1段目だけで

すぐB部分に入っています)

 

静かな雰囲気を壊さぬまま、

曲が短調から長調に切り替わるこの部分に、

彼女はきれいなY字バランスをキープしたまま

滑走するという振付(何という名前でしょうか?)を

割り当てています。

 

そして、すぐ後に続く最初のB部分では、

サビにふさわしく、

ジャンプを3つ入れて盛り上げています。

 

その後再び穏やかなA部分。

振付けはポジション替えのあるスピン。

回転しながら片手をアップして、

とてもエレガントな動きでした。

 

そして、次の2度目のB部分。

ここであの美しいイナバウアーの

バックベンド(後方への反り)が登場します。
 

振付けも音楽とよく合っていて、

一つ目のフレーズがイナバウアー。

二つ目で三連続ジャンプ。

三つ目がスピンになっています。

 

そして、原曲にはない、

サビのリピート部分。

彼女はなんと、

このスローでレガートなメロディで

ステップを入れているのです。

 

スケートの音楽によくある構成として、

プログラムの終わりの方に

ステップを入れるため、

アップテンポのリズミカルな曲が登場するのですが、

荒川選手の振付は

意表を突く音楽の使い方でした。

 

ラストは

再びポジション替えのある連続スピンで

盛り上げて終わっています。

 

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スケートのプログラムで、

オペラやバレエ、ミュージカル、映画など

物語のある作品を下敷きにする場合、

うまく作用すると、

元の作品のパワーと相乗効果で、

大きな説得力が生まれます。

 

しかし、長大な原作品から

どの場面と音楽を抜いてくるかで、

原作のイメージにうまく乗れるかどうかが

左右されます。

 

「トゥーランドット」を

プログラムに選ぶ選手は多いですが、
たいていは、
荒川選手と同じ曲構成か、
〈誰も寝てはならぬ〉のアリアを

単独で使うかの
どちらかです。

 

アリア単独だと、

ショートでは長過ぎ、フリーでは短すぎるので、

リピートしたりカットしたり、

みなさん工夫をなさっていますね。

あるいは、試合ではなく、

エキシビジョンや商業公演で使用しています。


荒川選手のパターンの曲構成は、

長さがフリーにちょうどいいんですよね。

しかも…

・単調にならない、
・強引にたくさんの曲をつなげていない
・曲と曲のつなぎが滑らか
・原曲の曲順に逆らっていない

…と、いいことづくめです。

だから、この曲を使う選手が

多いのでしょうね。

 

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荒川版「トゥーランドット」とは反対に、

物語がある作品を使ったことで、

印象を下げてしまった選手もいます。

 

ヨーロッパの選手で、ある時、

「椿姫」のオペラの曲を

メドレーにして滑った選手がおりました。

とても残念なことに、

使用曲が多く(ころころ曲が変わるので散漫な感じ)、
曲と曲のつなぎが唐突、

その上、原曲の順序を無視。

第1幕冒頭のにぎやかな曲が

(ヴィオレッタの家の夜会の場面)

おしまいのほうに来ていたり、と

(ステップの部分だった)

見ていて妙な気分げんなりになったのを

覚えています。

 

あるいは真央ちゃんの「白鳥の湖」。
黒鳥の32回転の曲を使用していたのに、
衣装が白だったので、
非常~に違和感がありました。

同じように思った人が多かったのでしょうか、
シーズン途中で
真央ちゃんは衣裳を
真っ白から白黒混じり(灰色)に変えていましたが、
ますます違和感。

 

原作のイメージに乗っかるのは、

一見楽そうですが、

緻密な計算が必要ということですね。

 

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さて、平昌オリンピック。

我らが期待の星・宇野昌磨くんの

「トゥーランドット」の構成はどうでしょうか。

 

基本的には荒川選手と同じ作りですが、

荒川選手の頃と違って

歌詞入り楽曲が許可されたため、

第3の部分は、カラフのアリアそのものを

使っています。

(パヴァロッティの声のような気がする)

 

アリア原曲には、

3度目のB部分がないので、

代わりに

オペラ全曲のラストに合唱で登場するBを

くっつけて使用。

オケも合唱も全開フォルティシモ、

盛り上がり最高潮の部分です。

なかなかナイスアイデア。

 

荒川選手にあやかって、

宇野選手に一番いい色のメダルをもたらす

プログラムとなりますように。

 

でも、私は羽生ファンでもあるので、

やっぱり羽生くんの2度目の金も期待してます。

ワンツーフィニッシュを祈りましょうがんばれファイト
 

《高島ピアノ塾》
高島登美枝

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