米バイデン政権が示したガザ停戦案――ハマスが歓迎し、イスラエルが拒否したその内容とは | 本のブログ

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普通の人は読まないだろうと思う本を記す。
あとは、Linuxと中古PCなどの話題。

 

 

六辻彰二氏は丁寧な記事を書いてくれている。

まぁ、一言でいうと「政治とはこういう(理不尽な)もの)」というところだ。

他国の一般市民にまでに、これほどわかりやすく、露骨に政治色をさらけ出すところが、米国らしいところなのだろうか?

政治の腐敗は、日本だけのものではなさそうだね。

ただし、日本の政治は幼稚な感じがするのは何故だろうか?

 

米バイデン政権が示したガザ停戦案――ハマスが歓迎し、イスラエルが拒否したその内容とは
六辻彰二国際政治学者 6/3(月) 8:01

アメリカ政府は「イスラエル軍の撤退」を含むガザ停戦案を発表し、パレスチナを含む国際的に高い評価を得た。
これに対して、イスラエル政府は事実上、停戦案を拒否する姿勢をみせている。
イスラエルが強気の態度を崩さない一因は、停戦案に関する「アメリカの本気度」が疑わしいことにあるとみられる。

ハマスが歓迎したアメリカの提案
 バイデン政権は5月31日、ともに調整役を務めるカタール、エジプトとともにガザ停戦案の内容を明らかにした。段階的に実施される主な内容は以下の通り。

第1段階
戦闘の全面的停止(6週間)
ガザの人口集中地域からイスラエル軍撤退 
ガザへの人道支援物資搬入 
イスラエルが拘束しているパレスチナ人数百人とハマスが拘束した人質のうち女性、高齢者、負傷者の相互解放

第2段階
ガザの全ての領域からイスラエル軍撤退
ハマスが拘束した人質のうちすべての生存者(男性兵士を含む)を釈放

第3段階
ハマスが拘束した人質のうち故人の遺体の引き渡し
ガザの学校、病院、家屋などの復旧支援
 バイデンはこの停戦案にイスラエル政府も合意していると強調し、ハマスに受け入れを求めた。
 これに対して、ハマスはバイデンの提案がイスラエル軍の撤退を含む「恒久的な和平」につながると歓迎する意向を示した。

「イスラエル撤退」をともなう停戦案
 今回の停戦案の最大の特徴は「イスラエル軍撤退」にまで踏み込んでいることだ。
 アメリカがそこまで求めるのは、今までになかったことだ。
 昨年10月にイスラエル・ハマス戦争が始まると、アメリカはそれまでの経緯から「イスラエルの自衛権」を最大限に擁護したが、犠牲者が増えるにつれ「即時停戦」をしばしば求めてきた。
 例えば南部ラファ攻撃が秒読みに入っていた今年2月にも、アメリカはカタール、エジプトとともに停戦協議を斡旋した。しかし、この際にはイスラエルが求めてきた「人質解放」などが優先され、結局物別れに終わった。
 明らかにイスラエル寄りだった2月の停戦案と比べると、今回の内容はガザ侵攻に対する国際的な批判をより反映したものといえる。
 だからこそ、ハマスを含むパレスチナでも歓迎のトーンが強い。例えばパレスチナ自治政府報道官を務めた経歴をもつ政治アナリスト、ヌール・オーデ氏は、「アメリカ政府が示したかつてない提案内容」と高く評価している。

「ハマス壊滅まで戦闘は続く」
 ところが、イスラエルのネタニヤフ首相はアメリカ政府の発表があった翌6月1日、「戦争終結の条件は何も変わっていない」と述べた。
 従来ネタニヤフは「ハマス壊滅まで戦闘は続く」と強調してきた。
 この方針に変更がないとは、つまり「バイデンの停戦案を受け入れない」となる。
 バイデンの停戦案に関しては、イギリスをはじめヨーロッパ各国、オーストラリア、国連、などのほか、サウジアラビアなどアラブ各国も支持を表明している。
 とすると、バイデンの確約とは裏腹に、ほぼイスラエルだけが同盟国アメリカの停戦案にNOをいったことになる。
 イスラエル政府がバイデンの停戦案を拒否したのは、その内容が「パレスチナ寄り」であることからすれば当然ともいえる。
 ただし、これに加えて、ネタニヤフが「この停戦案はバイデンの本心ではない」と考えている公算も無視できない。
 つまり、ネタニヤフ政権が「バイデン政権はイスラエルが拒否することを織り込み済みで、形式的にパレスチナ寄りの停戦案を提案しただけ」と考えたとすれば、その強気の態度も不思議ではない。

バイデンの本心はどこに
 実際、イスラエル政府がそのように考えても無理のない状況はある。
 第一に、バイデンは今年11月の大統領選挙を前に逆風にさらされている。アメリカ国内でもイスラエルに対する軍事協力への批判が高まっており、とりわけ2020年大統領選挙でバイデンの支持基盤になったリベラル派、若者、マイノリティからの拒絶反応は強い。
 そのためバイデンには、たとえ格好だけでも、ガザ侵攻を止めるための努力をアピールする必要があることは間違いない。
 第二に、バイデン政権は停戦案を打ち出す直前まで、イスラエルの軍事行動を容認し続ける態度を保っていた。
 例えば5月29日、ホワイトハウスのカービー報道官はガザ南部のラファで数多くの民間人が犠牲になった事件を問われて、「アメリカ政府はラファでの軍事活動を支持していない」と断った上で「イスラエルはレッドラインを超えていない」と擁護する姿勢を崩さなかった。
 ガザの他の地域から多くの避難民が押し寄せている南部ラファへの攻撃は、踏み越えてはならない一線“レッドライン”とみなされてきた。
 また、5月20日には国際刑事裁判所(ICC)がネタニヤフに逮捕状を請求したことに関してバイデンが「言語道断」と非難した。
 そして最後に、バイデン政権は昨年10月以来、125億ドル以上の軍事援助をイスラエルに提供しているが、イスラエルが停戦案を拒否した場合には援助を停止するといった「脅し」を事前に何も告知していなかった。

ガザ侵攻は終わらない
 バイデンの本心は神のみぞ知ることで、ガザ侵攻を止めたいと思っている可能性はゼロでないかもしれない。
 しかし、バイデンの停戦案が単なる「やってますアピール」だったにせよ、イスラエルに引きずられることへの警戒による仲介だったにせよ、重要なのはネタニヤフが停戦案を拒否した事実だ。
 少なくともイスラエル政府からみてアメリカ政府の本気度が疑わしい以上、スルーされても無理はない。
 そしてイスラエル軍が攻撃を停止しなければ、バイデンの停戦案を歓迎したハマスも戦闘を続けるだろう。国際的に高く評価されたバイデンの“3段階”ガザ停戦案が水泡に帰すことは、ほとんど避けられないとみられるのである。

六辻彰二
国際政治学者
博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。