本書は光文社2019年刊行のもの。
ネット上のフェイクニュースだとか、検索サイトの「おすすめ」など、アルゴリズムにより操作された情報が、人にどう影響を及ぼすかを、数学の専門家が検討するという趣旨の本。
結論的には、それほどの影響力は無いということだ。
また、巻末の方では、AIがどれほど発展するかについて、どちらかというと消極的な立場の見通しをしていたが、現在、ChatGPTを筆頭に相当出来の良さそうなAIが頻出している現状を考えれば、著者の予想は外れた言えよう。
しかし、文系の私は少しだけ考えてみた。
まず、前者だが、確かに、ネット上でのアルゴリズムによる、操作について、ある1件の事象、例えば、とある年度の大統領選挙への影響は、思ったよりも小さかったかもしれないのだが、5年、10年という状態、しかも、再帰的な影響、もしくは、福利計算のような影響についてはどうだろうか?
GAFAのような巨大なネットワークサービスと、スマホの連携により、様々な情報を各個人にプッシュし続けられる環境下で、各個人は影響を受けずにいられるものなのだろうか?
古い考え方の私には、現在の人々は、特に、生活に究極的に必要なもの、すなわち「衣食住」以外の何かがないと生きられないように仕組まれているのではないかと思うのだ。
そう、スマホに取り込まれてしまったような人々をあちこちで目撃するようになったのだ、しかも、老若男女関係なくだ。
まぁ、これは、そういうことだと、とりあえず納得しておこう。
さて、後半のAIの予想を外したことについては、本書は、AIが生物に近づけるかどうかを予想したから見込みが外れたものと思う。
なぜならば、現在のAIは、人間の社会環境に対して優れた効果を表す、それは、人間がある程度条件(ルール)を決めたものだからだ、チェスや囲碁などのようなものは、プロを凌駕するコンピューティング(AI)を創出する可能性はある、しかし、自然を相手にするには、複雑性が桁違いなのではなかろうか・・・斯様に思うのだ。
そんなわけで、本書は興味深く読ませてもらった。
人間には好奇心というものがあると言われるが、その裏には、強欲がへばりついている。
最近は下火になりつつあるようだが、YouTubeで儲けようなどという下世話な話が席巻したこともあり、今までならば、稼げなかった人々が、大金を手中に収めただろう、しかし、それも長続きはしないだろう。
本当に価値のあるもの(論文の質とか)が、「いいね」の数に凌駕されるような社会は、長い目で見ると劣化していくだろうことは、肝に銘じておいたほうが良さそうだ。