「サーカス」
むやみやたら香水くさい、気取りきれずに虚勢だけ張る、
痩せっぽちが歩いてた、寝起きまんまの崩れた髪型、
マフラー代わりの褪せたバンダナ、タバコを切らした、
小銭を探るポケットにはキャンディの包み紙、
掻きむしる髪には灰が、綿ぼこりとグリスの匂い、
ろくでなもない日々、欠伸まじりに聞こえないふりをする、
坂の上の十字から、祝福の鐘が鳴る、
残る胃のなか洗いざらい出し尽くす、
スタンド前のテレフォンブース、
滲んだアルファベットをなぞる、
ささくれた指先で、退屈しのぎに火をつけた、
月がまるで泣いてるようにしか、そう見ようとしかしなかった、
知人に殺し屋がいるのが自慢、
あいつに憂さを晴らしに連絡しようか、余計に憂鬱になるってやめる、
トレーラーハウスに腰掛けた大きな女は、
そいつの履いたパンプスより小さな男を片手でつまんで歩いて行った、
葬式に行くって言った、
革命家に電話しようと思ってた、
だけどそんなナンバー知らない、
生憎、電話帳にも載ってなかった、
そんな類の親切さはない世界、
引き上げられた沈没船から水死体、
くずかごに放り込みたいようなラヴソング、街中に流れてた、
どこかのカジノが放火にあって、客ごと皆焼けたらしい、
それを聞いてくすくす笑う子供達、街路樹にはシャンデリア、
畑にはビルが建ち、凡庸なる善良たちは、
ありふれたシュプレヒコールを繰り返す、
世界はまるで今日も空白、まるきり虚無の風が吹く、
意味のなさばかりを告げる、真白な風がなにもかもをさらってく、
ようこそって手を広げ、吹きさらされてるのは気分がいい、
色とりどりの風船たちも空に消えてく、オレンジ味やらペパーミントや、
犬と猫もそれを退屈そうに眺めてた、
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⇒“we go”
⇒鉄の街のフィーゼ
⇒眠りの森のネネ
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あの夏、ぼくらは流れ星になにを願ったんだろう……
流星ツアー(表題作を含む短編小説集)
あの人への想いに綴るうた