
「アフター・サーフ」
赤いブイが浮かんでかすむ、
ビーチサンダル、去年の砂がまだついてる、
タオル素材の白いパーカが風に揺られる、
ヤシの木の下、ハンモック、波に乱反射する光、
エスパドリーユ、赤と黄色と緑色、
水平線は遠くて白い、かすかに黒雲、
雨の臭い、逃げてゆく銀色のセスナ機や、
滑空するツバメたち、波が届けたラベルのない古い瓶、
中には乾いて褪せた文字、何処か他の国の言葉が並ぶ、
華奢なチェーンのペンダント、石はたぶんターコイズ、
賑やぐ真昼が過ぎてなお、ヒトは満ち始めた海辺に集う、
夕刻には燃えるオレンジ、舞うコウモリとバンのエンジン、
港に戻る漁船たちと、灯りはじめた浜辺の民家、
打ち上げられたクジラの子供、
赤銅色に日焼けした、男たちは珍しそうに、
サーフパンツにスニーカー、濡れた体を拭いもせずに、
人魚の話を教えてくれた、
夏の想い出、いまはもう眠る深海、
船首には羽ばたく鳥の羽根、海賊たちの昔の話、
作り話と史実をいくつ、寄せて返す波の音、
何度も何度も聞いたのに、細部を忘れてしまったみたい、
夏がくるたび思い出そうと記憶を手繰る、
どうしてか思い出せない、
夜を超えてきたからだろう、
人魚も宝の島の話も、夢に見るだけのもの、
どうしてだろう、真正面から吹く風は、
懐かしい、タバコの煙の匂いがしてた、
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⇒旅路の果てのラスネール
⇒ここにいたこと
⇒100年ピアノ
⇒ロスト・ハイウェイ
⇒荒れた地の向こうに広がる
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あの夏、ぼくらは流れ星になにを願ったんだろう……
流星ツアー(表題作を含む短編小説集)
あの人への想いに綴るうた


