「暴君クラウス」
そのとき彼は、眼下に広がる景色を見てた、
刑台上に俯くクラウス、その顔に色らしきは浮かんでいない、
諦めも奇跡も待たない、受容しているわけもない、
運命なんぞに抗い続けた、
さだめなどには唾吐き続けてここまできたんだ、
最期の舞台が刑台だろうと、
見下ろす世界は変わりもなく滑稽で、
無駄吠えだけの飼い犬ばかり、
僕の首を捻り斬ろうも、
やはり群れなす者には幻にしか映らない、
アジテートは快楽だった、天に中指さえ立てた、
拳ひとつを突き上げた、いまこの場にして思う、
怒号と歓声、そのふたつに大差はないと、
暴君から英雄へ、そしてまた暴君へ、
加虐と刺激の言動だけで、
踊らせてきたのは僕で、踊らされたのは群衆、
栄華の先には破滅が待って、その仕組みは神なるものか、
まるで反吐が出そうで込み上げる笑み、
幸福という幻想を、
束の間、等しく与えたろう?
眼下に広がる景色は飽きた、何ひとつも変わらない、
享受がすべてなのだとしたら、
一体、何が欲しかったんだ、
クラウス、欠伸を咬み殺す、シュプレヒコールはうるさいだけだ、
ずっと遠く空を見る、口をつくのは生まれ育った小さな農村、
水辺で歌った四季の歌、もう忘れたはずなのに、
いまになって胸に鳴る、
今頃きっと雨季を迎えたころだろう、
一瞬であれ、この世のすべてを手にしたはずなのに、
愛した人はいなかった、
いまさら遅いや、だけど後悔するほど愚かしくない、
暴君クラウス、四肢を貫く鉄線に、
しかめることもくだらない、左右から向くピストルが、
鳴らされるのを待っている、いまこの瞬間見た光、
そいつだけは持ってゆこうと目を閉じる、
加虐と被虐の果てに見る、この高みだけは僕の世界だろうと、
僕はいま、誰より天に近い場所、そこにいる、
僕はいま、昇る意思のない者にはたどり着けぬ高みにて、
さらなる高みを眺めてる、
あの夏、ぼくらは流れ星になにを願ったんだろう……
流星ツアー(表題作を含む短編小説集)
あの人への想いに綴るうた




