業務の引継ぎを理由に、退職前の有給休暇の請求を拒否できますか? | 社会保険労務士法人Nice-One 所長のブログ

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まず有給休暇の基本からおさらいしてみましょう。
有給休暇は、雇入れの日から起算して6ヵ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した場合に(その後については、継続勤務1年ごとに前1年間の全労働日の8割以上出勤したら)発生する、労働者の権利です。
事業場の業種、規模に関わらず、また、パート、非常勤等の雇用区分にかかわらず、所定労働時間や所定労働日数によって、付与日数が定められています。

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     有給休暇に関する主なポイント

     

  • 就労義務がある日に取得することができる。

従って就労義務のない休日に有休休暇を請求することはできない。

  • 有給休暇の利用にあたり、労働者は許可を求めたり承認を得たりする必要はない。

よくある誤解ですが『いついつに有休取ります。』は有給休暇の取得時季を指定する請求をしているのであって、有給休暇を取得する許可を得ているわけではありません。
※会社は請求された時季に与えることが事業の正常な運営を妨げると具体的・客観的に判断される場合は、例外的に使用者は時季を変更することができる(時季変更権)。

  • 未使用の有給休暇は、翌年度に限り繰り越しとなる。(労働基準法第115条)

※就業規則等で、当年度付与分から使用の旨を定めれば、使用される優先順位を変更することは可能。

  • 有給休暇を取得した日・期間については、就業規則等の定めにより、平均賃金、通常の賃金又は労使協定に基づく健康保険法上の標準報酬日額相当額を支払う必要がある。

※あまり意識はされませんが、支払金額の選択肢は一つではありません。

 

  • 有給休暇を取得した労働者に対して賃金の減額(精皆勤手当の不支給、賞与の減額等)など、休暇の取得を抑制する不利益な取扱いをしてはならない。(労働基準法附則第136条)

例えば、「取得義務のある有休を除いて、有休を取得しないで一年出勤したら、金一封」なんていうものは、明らかに取得を阻害していると考えられるのでNGです。

 

さて、ここまでを踏まえて、

「業務の引継ぎを理由に、退職前の有給休暇の請求を拒否」
について考えてみると、
事業者が出来うる方策は「時季変更権」しかありません。
それでは、これを使って、退職前の有給休暇請求を拒否できるのかですが、結論としては無理です。
時季変更権における、「事業の正常な運営を妨げる」ですが、簡単には「事業の正常な運営を妨げる」とは言えず、実務的には時季変更権はハードルが非常に高いと考えてください。
一般的にはその職場を基準として代行者の配置等の事情や事業の規模内容、担当業務などの事情を考慮して判断されますが、分かりやすい例を挙げてみると、
「税務調査にその権限・業務能力を以て対応するべき経理部長が、その調査日に有給休暇を取得」のようなレベルといえるでしょう。

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    まとめ

     

退職前の引き継ぎがあるから有給休暇を取得しないでもらいたい、現場としてそのように考える人が出ることは理解できますが、
労働基準法の観点からみると、本人の申請を認めるのが原則となります。
一方で、業務の引継ぎを行うことは社会通念上からみてその責任があると考えられますから、本人からの協力が得られるよう以下のような提案を行ってみることはいいでしょう。もちろん、応じない場合は、スタッフの申出を受け入れましょう。

  • 退職日を遅らせることができないか打診
  • 残った有休日数について買い上げることを提案