「そんなこと当たり前にやっていいし、やらないといけないだろう」
そんなお叱りが飛んできそうな今回の記事。
顧問先からの、
「育休中の従業員に対して、復職予定が近づいてきたため、面談をしたいと連絡したのだが、『それって業務ですよね?育休中に業務をさせることは法律違反ですよ。子育てで忙しい中、必要ありません。』と言われてしまった。こちらとしては、復職しやすいように善意で言っているんですが…。どうしたらいいんでしょう?やらないわけにもいかないでしょうし。」
という相談をきっかけに、考えてみました。
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復職前面談とは
育児休業について定めのある、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下、「育介法」)を見ても、復職前面談については何も定めがありません。
妊娠又は出産等についての申出があった場合における措置等として、意向確認のための面談が必要という定めがあるのみです。
「第二十一条 事業主は、労働者が当該事業主に対し、当該労働者又はその配偶者が妊娠し、又は出産したことその他これに準ずるものとして厚生労働省令で定める事実を申し出たときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該労働者に対して、育児休業に関する制度その他の厚生労働省令で定める事項を知らせるとともに、育児休業申出等に係る当該労働者の意向を確認するための面談その他の厚生労働省令で定める措置を講じなければならない。」
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育児休業の意義
固い言い方にはなりますが、育児休業とは
「子の養育を行うために休業期間中の就労義務を消滅させる制度」
です。
正確には、本人との合意のもと、一時的・臨時的に就労する余地がない訳ではありませんが。
※一時的・臨時的とは、例えば「大災害が起きて、育休中の従業員は交通網や通信網が保たれていて、臨時的な災害対応の場合」や「突発的な出来事において、他の者では対応できない臨時の業務を行う」のようなレベルのことです。
※雇用保険上、申請期間内の就労が10日以内(満たせない場合は80時間以内)であれば、支給された賃金と調整の上、育児休業給付金が支給されます。ここからも、絶対に働いてはいけないというわけではないことがわかります。
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復職前面談の業務該当性
上記の下線部、「休業期間中の就労義務を消滅させる」というところから、まず、復帰前面談が業務に該当するかを考えないといけません。該当する時点で行ってはいけないためです。
一時的・臨時的に就労する余地から、それと比肩するかと考えれば、そこまでではないですね…。
どちらが申し出ているかによって、以下のように考えられます。
- 事業主指示(命令)⇒業務に該当すると考えるのが妥当です。
- 本人申し出⇒業務とは必ずしも言えないものです。
この時点で、事業主指示とはしたくないと思う事業主の方多そうですね。しかも、業務であれば当然に賃金の支払義務も発生します。というより、復帰前面談の時間に対して、賃金を支払っている事業主などいるのでしょうか…。
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業務でないものに強制力は持たせられるのか
とはいえ、本人申し出だと、冒頭の従業員のように、復帰前面談が嫌だという人も出てくるかもしれません。そうされないよう、強制力を持たせることはできるのでしょうか?
今回話題にしている面談は、時間を拘束するものです。
秘密保持義務のような、従事時間が存在しない、信義則的なものではないということです。
業務でない時間について強制力を持たせられるかは、以下のような思考で説明できます。
事業主が労働者に対して持つ指揮命令権は、労働契約に基づくものであり、指揮命令が及ぶ範囲は労働契約の範囲内⇒個別の労働契約・就業規則上が根拠⇒根拠を基に、事業主の命令で時間を縛る⇒その時間は役務の提供(業務)に該当する⇒使用者の指揮命令下に置かれた時間(=労働時間)となる。
となり、業務でない時間に強制力は持たせられないものです。
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結局どうすればいいのか
拒否する権利がある、拒否しても不利益は与えないと労働者本人に明示したうえで、希望する労働者に復職前面談を行う
となるでしょうか。せっかく善意で行おうとしているのに世知辛い感じもしますが、これも時代なのかもしれません。適切な対応をするようにしましょう。