自殺所2 | 置き場

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ここに、自殺志願者。
仮に輪山弓子と呼ぶ32歳。
仕事では上司から同僚からの陰湿ないじめ、家庭では夫の浮気に息子の体の不自由さに見も心も果てた兼業主婦である。

まず入り口では受け付けを済まさなくてはならない。
誓約書を熟知し、サインをする。判子を押すのだ。
最後に身元引受人を記入しエレベーターを上がる。

「では、輪山弓子さん誓約書を読み上げますのでわかりましたら太枠内もれなくお書き下さい」

一、自殺志願者(以下、私)はいかなる理由があっても内部の構造を漏らしません。
一、私の遺留品は全て受け付けにて預け、身元引受人に引き渡す事を了承します。
一、私は貴社の新生命保険に加入し、得た金を国に回す事を了承します。

「わかりました。ではサインを…」
弓子はペンを持ち名前を書こうとした。
「本当に、いいんですね?遺書はお書きになりますか」
「いえ、いいんですもう生きたくないんです。拇印でいいですか」
「えぇ」
スラスラとサインをして最後に行き詰まった。
「いかがなさいました」
「旦那でいいですかね、身元引受人」
「えぇ。書いたら右手の黒いエレベーター50階直通でお逝き下さい良い旅へ逝ける事を願っておりますお疲れさまでした」
事務的な態度、実は受け付けの者も元は自殺志願者であった。
50階であっても稀に失敗する事もある。ある意味強運。生きるべきとなり、この自殺所で勤める事になるのである。

弓子は黒いエレベーターに乗ると数十秒自分だけの時間が与えられた。
半生を振り返り手が震え涙が溢れだす。
死にたくないからではなくて嬉しいから。

やっと解放される。

続く