Life in the Lone Star State -105ページ目

債権法の改正(Vol.4)

第4回は「一人計算」について少し詳しく取り上げたいと思います。

一人計算とは、三者以上の複数当事者が相互に債権債務関係を有している場合に、その債権債務をネット決済(差引決済)することで、決済の簡便化を図る手法です。多数当事者間での相殺(ネッティングと言いますが)の仕組みを作ることがこの一人計算というコンセプトの目的です。もう少し具体的に説明します。

例えば図1のような債権債務関係にあるABCという3当事者がいたとします。

<図1>
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現行法は、二当事者間での相殺しか認めていませんので、この場合、BはAに対して60、CはBに対して40、AはCに対して20の債務をそれぞれ個別に支払わなければなりません。

そこで、この三当事者間での差引決済を可能にするために、図2のように中央にXという機関を便宜的に設置し、AのBに対する60の債権をAのXに対する60の債権とXのBに対する60の債権の2つの債権を発生させるのと引き換えに消滅させます。

<図2>
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そうすることで、ABCの債権債務は全てXを相手方とする債権債務に切り替わります。その上で、各当事者がXに対して負う債権債務を差引決済すると、Aは+40、BとCは-20ということになります。つまり、AはXから40受け取り、BとCはXに20支払うことで決済するということになります。

これが「一人計算」という仕組みで、この場合のXを「計算人」と試案では定義しています。

ちなみに、三者間での決済の場合には、実は計算人を設置しなくても不都合は起きません。上記の事例の場合でも、AがB及びCに対してそれぞれ20の債権を有するという形での差引決済が可能だからです。これは、複数当事者間のうち、プラスの債権を有する者が1当事者だけの場合、またはマイナスの債務を有する者が1当事者だけの場合には、差引決済しても計算人を置くことなく誰が誰に対して債権債務を有するかというのは決定できます。

しかし、四者間以上での決済になると、差引決済をした結果、プラスの債権を有するものとマイナスの債務を有するものがそれぞれ複数発生する可能性があり、その場合、誰が誰に対して幾らの債権を有しているかということを決めることができません。(例えば、決済の結果、Aが+50、Bが+30、Cが-20、Dが-60となった場合、ゼロサムにはなりますが個別の債権債務関係は特定できません。麻雀をやられる方ならよく分かると思います。)

というわけで、複数当事者間(特に四者以上)での差引決済を行う場合に、この一人計算という考え方は有用ということになるかと思います。ただ、この仕組みでは、計算人との債権債務を発生させた時点で原債権が消滅することを前提としていますので、Xに対して債務を負う当事者のクレジットリスクを誰が負うのかという問題が生じます。例えば図2の例でBが倒産して20の債権をXが回収できなくなってしまった場合、その20を誰が負担することになるのかという問題です。

計算人であるXは基本的には決済を行うハコに過ぎないので、最終的には一人計算に参加している当事者が倒産リスクを負う仕組みにしなければならないように思いますが、この点について、試案は敢えて規定は置かないようです。したがって、一人計算の仕組みを構築する各グループ間の契約によって、この点のリスク分配を決めることになるのでしょう。ここが一人計算契約の肝になるところかと思われます。

(続く)