に引き続き、少し。
二〇一七年四月一二日、
フィギュアスケートの浅田真央が記者会見を行い、
現役引退を表明した。
一人の記者が発した
「トリプルアクセルに声をかけるとしたら？」
という珍質問に対して、
浅田は悩んだ末に笑顔で答えた
「なんでもっと簡単に跳ばせてくれないの、という感じ」。
簡単に跳ばせてくれなかったのは、
自分の欲することが簡単に叶ったらつまらないからである。
目標が簡単に叶うような世界は、
天国ではなく地獄である。
スポーツ選手に限らず、
ほとんどの人は何らかの目標を掲げて毎日を生きている。
どういう目標を掲げるかは重要だ。
ポイントは二つある。
一つは
「必死で努力をすればできそうだが、
実際にはなかなかできないことを目標にする」
といい。
難しすぎても簡単すぎてもダメだ。
もう一つは、
「内的目標を主、外的目標を従にする」
ことだ。
たとえば、
今度の週末にテニスの試合があるとしよう。
テニスの試合に勝つことは外的目標である。
というのも、
相手次第なので自分が勝つかどうか
は自分では完全にコントロールできない。
一方、
試合で自分の力を出し切る
という目標は内的目標である。
これは、相手には左右されず、
自分で完全にコントロールできる。
外的目標が達成されればそれに越したことはない。
仮にそれが達成できなかったとしても、
自分がしてきたことのすべてが無駄になるわけではない。
「倒れるまで」（196ページ）と
「コスタリカの漁師とアメリカ人旅行者」（199ペ―ジ）
のところで私は、
節度を伴った欲望を持つことの大事さについて書いた。
もう一つ、大事なのは、
願望ではなく、意志を持つことである。
前者は欲望の量に関すること、
後者は欲望の質に関することである。
哲学者のアンドレ・コント・スポンヴィルは
『幸福は絶望のうえに』（紀伊國屋書店）
の中で願望と意志の違いについて述べている。
ポイントは次のとおり。
①願望は自分では左右できないことに向けられた欲望である。
それに対して、
意志は自分で左右できることに向けられた欲望である。
たとえば
「今度の日曜日、晴れるといいな」
と思うのは願望、
「今度の試験で及第点を取りたい」
というのは意志である。
後者は自分の力で何とかすることができる。
②願望は自分の知らないことに向けられた欲望である。
一方、
意志は自分の知っていることに向けられた欲望である。
たとえば、甚大な災害が
遠い国で起きた場合と身近な地域で起きた場合を考えてみる。
前者の場合はその状況を知ろうにも限界があるので
観察する人に留まるしかない。
後者の場合はその状況を知るのは難しくないので
行動する人になれる。
③願望とは自分の持っていないもの、
あるいは存在していないものに対する欲望であり、
それゆえに自分のものとして楽しむことができない。
意志は自分の持っているもの、
あるいはすでに存在しているものに向けられた欲望である。
したがって、
意志の場合は自分のものとして楽しむことができる。
願望とは、知も力もないままに欲望することである。
願望は努力に結びつかず、非活動的である。
ほとんどの場合、
過去や未来を夢想したり、空想したりすることになる。
一方、
意志とは知っていること、
できそうなことに関して欲望することである。
努力と結びつき、活動的かつ生産的であり、
いま現実にあるものや自分が持っているもの
を味わい楽しむことができる。
意志と努力によって自分の未来は変えられる
―ーこの言葉には、
単なる願望では駄目だという意味、
学ぶことの重要性の意味が隠されている。
苦しめることが天国で、
苦しめないことが地獄……。
いい加減で、
やれる方がいいですね（笑）。
それでは皆様、本日も
楽しくお過ごし下さい。
最後まで読んで頂き、
ありがとうございました。
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